プラモデルで感じる小さな国の存在感/『マイナーエアフォース』が誘う机上の世界旅行。

 初めての海外旅行の行き先はブータンだった。成田から上海、上海からタイのバンコクへと乗り継ぎ、バンコクからブータンの首都、ティンプーへと向かう飛行機は途中で一部乗客の乗降のためにバグドグラという聞いたこともない空港に立ち寄るのだという。帰国してから知るのだが、バグドグラ空港というのはインド東部、ネパールとバングラディシュの国境が南北から迫るシリグリという街の外れにある。眼下に見える滑走路の脇にかまぼこ型のハンガーが並んでいて、小さな戦闘機がズラッと並んでいるのが認められた。着陸して機体が滑走路の端にたどり着くと、マシンガンを持ったインド兵が外に立っているのが見える。「ここは空軍基地でもあるので外の景色を記録してはいけません」と機内アナウンスが流れた。

 ああ、ここで何分くらい暇な時間が続くのだろう……と思ったその時、機外から乾いた「パリパリパリ」という聞いたこともない音が聞こえた。窓の外に目を向けたその刹那、乾いた断続音は「ザバーッ!!」という耳をつんざくような轟音に変わり、2機のMiG-21(もちろんプラモデルでしかそのカタチは知らなかった)がとんでもない角度で蒼空に駆け上がっていくのが認められた。10分か、15分か、動悸の止まらぬまま滑走路をじっと見つめていたら、こんどは2機のMiGが音もなく着陸して、機体の尾部からドラッグシュート(ブレーキをかけるためのパラシュート)がドバっと開いたのだった。「海外の空軍」を我が身で体感したのは、もちろんそれが初めてだ。

 この本によれば、地球にはおよそ160の空軍があるのだそうだ。大きな国にも小さな国にもそれぞれの事情があって、航空機を擁した軍隊がある。ガボン、ナイジェリア、アゼルバイジャン、カタンガ、レバノン……。 どこにあるのかイメージしづらい国からいまでは存在しない国にも固有の歴史があり、オリジナルな塗装と国籍マークを纏った戦闘機が大空を飛ぶ。「この国はアメリカ製の航空機を運用しているな」とか「この国はソ連製の航空機を運用しているな」ということを知ると、戦後に辿った運命にも興味が湧き、Wikipediaホッピングが捗るというもの。

 1/72スケールのプラモデルで揃えられた15カ国の軍用機たちはどれもていねいに作られており、それぞれの空軍の出自や特色についても簡潔にまとめられている。読んだ印象としては「資料」ではなく、戦闘機を通じて知る地理や歴史の参考書に近いかもしれない。が、いま僕らが置かれたこの状況下にあっては『模型版・地球の歩き方』のように読むこともできる。

 訪れたことのない国の美味い料理、美しい建物、比類ない景色……。世界を旅する動機はいくらでもあるが、プラモのモチーフを通してその国を知り、その国を通してプラモに触れてみることもできる……と考えると、プラモデルは本当に稀有な趣味である。「マイナー」というのはあくまで「空軍としての知名度」を指す言葉であるが、世界はこんなにも広く、バラエティに富んでいるのだということを思い起こさせる。そしてプラモデルはその世界を覆い尽くすように万物を手のひらサイズに縮め、世界中の人々の知識や好奇心を繋げるように模型屋さんの棚で僕らを待ってくれているのだ。

<em><a href="/author/kalapattar/">からぱた<br></a></em><a rel="noreferrer noopener" href="https://twitter.com/kalapattar" target="_blank">@kalapattar</a>
からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。