ピックアップ・タミヤMMフィギュア! あの日見た「アメリカ」を忘れない。

 クリントン大統領、トイ・ストーリー、テレ東X-MEN、クソデカい家に住んでBMXみたいなチャリに乗ってる子供、グランジ、スターシップ・トゥルーパーズ、カッコいいアクションフィギュア、ジュラシック・パーク、マイケル・ジョーダンなどなどなどなど……。当時田舎に住み味噌汁やアジの干物を食べるガキだったおれにとって、映画などで見るアメリカ文化は強烈な印象がありました。そんな印象と直結しているプラモデルが、タミヤの「アメリカ現用陸軍歩兵セット」です。おっさんは全員、このプラモデルみたいな格好の兵隊を「最近のアメリカ兵」だと思っています。間違いない。

▲ウッドランドにPASGTアーマーにLC-2装備に固定キャリングハンドルのM16! 泣いちゃう!

 今改めて箱絵を見ると武器や装備がビタイチ現用じゃなくてすごいですが、このキットの発売は1985年。ゴルバチョフが書記長に就任し、ライヴ・エイドのコンサートが開かれ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開され、『戦え! 超ロボット生命体トランスフォーマー』が大人気になっていた年です。そりゃ古くもなるはずだわ。

 当時の米軍は多くの装備を更新した時期でした。例えばM1エイブラムスの制式採用は1981年だし、鉄製からケブラー製へと変更されたPASGTヘルメットが配備開始されたのは1975年、新型の汎用個人用軽量携行装備(ALICE)は1972年から段階的に改良され続けています。つまり70年代中盤から80年代にかけては、ベトナム戦争の戦訓を取り入れた近代的な装備へと米軍が移り変わる時期にあたりました。その結果、グレナダやパナマへの侵攻、そして湾岸戦争ではこれまでの米軍とは全く違う見た目の兵隊が姿を現し、全世界の人が「今のアメリカ軍、なんか未来の兵隊みたいで超カッケ~!」と驚愕するという事態が発生したのです。

 ちょうどこの時期の米軍はMM的にも美味しい素材だったと見え、タミヤはこの時期に現用米軍系アイテムを集中的に発売しています。1982年の「No.123 アメリカM151 A2 フォード・マット」を皮切りに、M1エイブラムス、M247ヨーク対空戦車、メルカバMk.1、M2/M3ブラッドレー、チャレンジャー、LVTP7、M60A3、現用アクセサリーセット、ハマーと、80年代を通して米軍を中心に当時の現用アイテムを出しまくりました。まあ、この時期はいわゆるAFV冬の時代にあたり、今までの第二次大戦系アイテムが行き詰まったから新しい方向性を色々模索してみた、という感じかもしれないんですけども。

▲漠然と「最新型ヘルメット」と書かれるPASGTヘルメット。そんな時代もあったのだ
▲いやほんと、今見るとシンプルな装備なんだよね……

 というわけで発売当時は文字通りの「現用アメリカ兵」だったこのキットなんですが、もう箱のベロからして感涙モノ。見てください、このPASGTヘルメットが「最新型ヘルメット」と解説されているところを……。箱の裏の兵士の装備品紹介もPASGTボディアーマーにLC-2装備、迷彩はもちろんウッドランドと、もはや郷愁すら感じる内容となっております。いやあ、やっぱりこの装備一式が「現在のアメリカの兵隊」なんですよね。FASTヘルメットにマルチカムにレールだらけの鉄砲という装備の兵隊には、なんだか温かみがないと思いませんか……?

▲輸入食品店行くとこういう色のチーズ売ってるよね

 箱の中身はランナー2枚で、まるでレッドチェダーチーズのような色の成型色。箱絵でみんなウッドランドを着てるのに、なんでこの色になったんだろうか……。装備品とフィギュア本体で分かれているのは、いつものタミヤ製フィギュアキットのフォーマットです。

▲今見てもM60のハンドガードの彫刻はすごいな
▲この水筒のポーチのゴワゴワ感よ
▲ドラゴン対戦車ミサイルはバラバラになってます

 装備品ランナーの細部も見てると泣いちゃう内容。迷彩カバーがついたPASGTヘルメットにM1972スモールアームズ・アミュニション・ケースといった装備には「これこれ、この味!」と皆ニッコリ。プラスチックの質感が伝わって着そうなエントレンチングツール・キャリアのかっちり感や、ナイロンの手触りが感じられるようなキャンティーンポーチの彫刻も素晴らしい。もちろん鉄砲は固定ハンドガードのM16に、機関銃は素のM60だ! そのうち一人はグレネーダーだぞ! そんで歩兵用の対戦車兵器はドラゴン対戦車ミサイルだ! 濃厚な90年代米軍スメルでクラクラしてきますね。M60のバイポッドに開いてる穴とか、超シャープに抜けてるのはさすがにタミヤです。

▲こいつは立たない
▲こいつももちろん立たない
▲まあこの人も立たないよね
▲いけそうに見えるけど立ちません

 で、組み立てるとこんな感じに。この時期のタミヤのフィギュアは妙に手足が細長くてヒョロッとしてるんですが、この人たちも割とそんな感じです。で、このセット最大の特徴が「全員自立しない」という点。なんと、マジで全員立ちません。M16を構えてる彼も、ドラゴン対戦車ミサイルを持ってる彼も、機関銃持ってる彼も、全員走ってて立たない。このキットの直前に発売されたのがM2ブラッドレーなんですが、どうも「ブラッドレーの後部ランプからわ~っと歩兵が飛び出してきたぞ!」というシーンを再現させたくてこのキットを発売したんじゃないか、という気がします。ドイツ歩兵突撃セットとハノマークみたいな関係ですね。

▲でも見てると「あの頃」を思い出しちゃうんだよね……

 正直今見ると「なんか妙に頭と手がでかい割に全体がヒョロッとしてるな……」という感じではあるんですが、しかし防弾チョッキとカッコいいヘルメットに身を固めた歩兵たちが、歩兵戦闘車から飛び出してくる姿は紛れもなく現用アメリカ兵……! 上田信先生の名著「コンバット・バイブル」が読みたくなりますね。また最近はなにかと冷戦後期を舞台にしたコンテンツ(『ワンダーウーマン1984』とか『Call of Duty:Black Ops-Cold War』とか)が出ていることですし、その当時を懐かしむアイテムとしてもイケるかも。冷戦後期から90年代にかけての、イケイケだったアメリカのムードに酔えるキットです。

しげる
しげる

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。