プラモデルの箱の中から凄腕のパイロットが飛び出てきた話。

 去年の夏、X-29を見た。エリア88からそのまま飛び出してきたと錯覚するような非現実的なかっこよさで宙吊りになっているその機体は、永遠に飛び続けているようだった。

 このプラモを買うのは何度目だろう。そして、今度こそちゃんと作りたいな、と思う。ただ、あの奇妙な緊張感と腰を抜かすほどのシャープさがプラモで表現できるかどうか、いまも自信がない。だから、何度でも買えるということが本当にありがたいと思う。これは、プラモの素晴らしいところのひとつだ。

 見れば見るほど、完璧なキットだと思う。前進翼という機体の特徴をよく表した俯瞰のイラスト。少ないながら的確に、しかも正確に立体化されたパーツたち。NASAの毒々しいまでに艶やかなストライプはデカールになっていて、白いプラスチックに貼り付けるだけで気分はテストパイロットだ。

 このプラモの奇妙な点に気づいたのは、前回買ったときのこと。着座姿勢ではなく、立って右腕を広げたポーズのフィギュアが付属しているのだ。しかも、ハシゴまで用意されている。これはハセガワの他の飛行機プラモではほとんど見たことのない仕様である。

 説明書にはただ「パイロット」と書いてある。両サイドに乏しい毛髪を残したハゲ頭のイラストであり、特定の誰かをモデルにしていなければこんな演出はしないだろう、と予測できる。

 「X-29 pilot」というワードで検索して、ぶったまげた。彼の名は、ロジャー・E・スミス。実在の人物であり、カリフォルニア州エドワーズにあるNASAのドライデン(現アームストロング)飛行研究センターで数々の実績を残した凄腕のリサーチパイロットだったのだ。

 彼が操縦した飛行機を調べると、とんでもない経歴であることがわかる。SR-71にはじまり、F-15 ACTIVEやX-31、F-104、X-29などなど、模型映えする機体の数々がずらりと並ぶ。

 スミ入れをして、改めて彼のディテールを眺める。そこにいるのが名もなきパイロットではなく、綺羅星のような経歴を持つ凄腕のリサーチパイロットだったのだということがジワッと浮き出てくるような気がして、私はこのプラモのことがいままで以上に好きになった。

<em><a href="/author/kalapattar/">からぱた<br></a></em><a rel="noreferrer noopener" href="https://twitter.com/kalapattar" target="_blank">@kalapattar</a>
からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。