
ドイツ軍といえば無敵の戦車部隊と装甲擲弾兵を満載した兵員輸送車が爆走し、装甲部隊による高速攻撃で敵を木っ端微塵……みたいなイメージが強烈でしたが、実のところ案外車両が少なかったとされています。戦車はいつまでたっても数が揃わず、トラックなどの自動車も不足する始末。ということで、大戦全期間を通じてず~っと便利に使われたのが馬でした。1975年に発売されたこのドイツ将校乗馬セットも、そんなドイツ軍の馬のプラモとして、現在までいぶし銀の輝きを放っております。





通常、70年代のタミヤMMのドイツ兵プラモはフィールドグレーの成型色なんですが、なぜかこのキットは全部白。なんでこの成型色がチョイスされたのか、おれは小学生の頃から疑問でした(そして小学生なのであまりにもストロングスタイルな手綱の作り方についていけず、普通に失敗しました)。

しかし、各パーツは今見てもカリカリにエッヂが立っててイカす。オマケでついてるワルサーP-38とか、オーパーツみたいなシャープさです。ま、部品が白いからよくわかんないんだけどさ……。


乗馬ズボン履いてるし立ってる人は腰にマップケース吊ってるしで、2人とも将校ということなんでしょうが、脇に立っている人はベルトに手榴弾までぶっさしてけっこうしっかり武装しているのが面白い。前線まで近いところに、偉い人が自ら偵察に来たんでしょうね、多分。そして馬に乗っている人はマルチポーズなのがなんとも懐かしいところ。手綱を握っているポーズと、双眼鏡を覗いているポーズを選択できるのです。パーツが腕の付け根でぶった切られているシンプルな構成のキットだからできることですね。さらに箱には「頑張ればオマケのワルサーを持った状態にもできるぞ!」という文言も。言ってることがハードコアだ……。




胴体左右を貼り合わせて頭を乗せれば、速攻で馬が完成。たてがみが別パーツなあたりに「パテでたてがみを自作する人もいるかもしれんだろ!」という気配りを感じて、逞しいタミヤの腕に抱かれている気持ちになろう。
このキットはタミヤMMでも一番最初に馬を立体化したもの。だからかどうか知りませんが、やたらと彫刻に気合が入っております。腹や顔の脇に浮きだした血管や、頭に取り付けられた馬具の立体感はピカイチ。お尻や脚のあたりのムキムキなモールドにも、車両にはない生き物っぽさが充満しています。意識してまじまじと見ると、かっこいいぞ、馬!


というわけで完成。こうして改めて見ると、本当に「ドイツ軍の将校が馬に乗っている」以上の情報がなんにもないキットです。どこからどう見てもドイツ軍の将校だけど、迷彩のスモックを着ていたり防寒用の上着を着ていたりという要素がゼロ。むちゃくちゃオーソドックス。ということは逆に、このフィギュアはどこに置いても割とオッケーということになります。戦車の脇に置こうが兵隊の脇に置こうが、ロシアに置こうがフランスに置こうが大体平気。「なんとなく大戦前半~中盤くらいで、北アフリカとか極端な気候の場所ではないかな……」という場所だったら、どこにいても違和感のない服装とポージングです。
おまけに馬も走ったり歩いたりしてないし、将校の二人もほぼ棒立ち。ストンと立たせてそれで終わりで、特に演出しなくても「馬に乗った偉い人なんだな」と理解できる潔さ。この汎用性は、ちょっと他のフィギュアセットでは見ることができないものです。それでいて馬なので、存在感は抜群。まるで崎陽軒のシウマイ弁当に入っている筍の煮たやつみたいな、オールラウンドなのにビシッと目立つバイプレーヤーです。演技をしていない、棒立ちだからこその汎用性。それこそが、このキットの持ち味なのではないでしょうか。
