プラモはどうやっても本物にはならない!ならないけど本物が気になる!このジレンマよ。矛盾を抱えて人間は生きていくのです。

このたびモデルアート社から刊行された『F-14 トムキャット細部写真集』はトップガンとかでも超有名な米海軍の人気ナンバーワン選手、F-14トムキャット(実機)のあんなところやこんなところが鮮明に映し出されたフォト満載の写真集。
で、上に掲げたのは「まずはじめに見開きドカンと一枚の写真、これでまずホンモノのトムキャットの肌の感じを分かれ!」というすごい編集パワーを感じるページです。そしてこの見開きに、この本のメッセージが込められている、と私は直感しました。
パネルやリベットやサビや塩やオイルや塗装がドワ〜っと入り混じったテクスチャが目の前に実在するのかというくらい巨大に印刷されており、「これを1/48とか1/72とかでヒャクパー再現する……のは無理ですね!」ということが突きつけられます。そしてその感覚は、続く詳細なディテール写真たちにおいても共通しています。



とにかく、世の中の実在するメカというのは(プラモを眺めているだけでは一生理解できないほど)複雑で、汚く、ガチャガチャしたところとスパーっとシャープなところの入り混じった、造形と質感の複合体であるということがわかります。
こうした写真を見て「本物はこんなにごちゃごちゃしているのか……これを全部再現するのは無理だぁ……」となってしまう人がいます(自分もモチーフによってはその仲間になります)。そういうときはめっちゃ小さいプラモを作ってみましょう。飛行機であれば、1/144みたいなスケールがそれにあたります。モチーフのカタチがどーんと味わえる反面、「ホンモノをそのままデカチビ光線銃で縮めることでプラモが作られているのではない」ということが一発で理解できるからです。

箱が本の半分くらいのサイズで安くてサクーっと作れる内容なのがいいんですよねレベルの1/144トムキャット。




プラモの面白いところは「なんだか実物っぽく見える」という結果があっても、「精密に実物を縮小したから」「色や質感がそっくりだから」「前後の景色がそれっぽいから」「なんだかわからんけど写真の魔法か?」(もしくはそれらの複合技)といったように、その理由(=過程)がまちまちな点にあると思います。そしてそれらは絶対にホンモノではない、というのが最高に楽しい。特撮映画の撮影風景を見て「えーっ!」と驚く、あの感覚です。
しかし、この種の驚きを作り出せる人々に共通しているのは「モチーフをきちんと観察したことがあるかどうか」ではないでしょうか。モチーフというのは本物のカタチや構造を見ることだけに限りません。金属とはなにか、サビとはなにか。塗装とは、ゴムとは、ガラスとは……?
模型のワンダーを手に入れようとしたとき、「ホンモノを知っている人は、プラモでも絶対に再現しなければいけない」のではなく、「ホンモノを知っているからこそ、プラモにおける省略のしかたがわかる」「ホンモノを知っているからプラモにウソを混ぜて”らしさ”をブーストできる」というのを忘れてはいけません。
知ってて作るか、知らずに作るか。
大丈夫。詳細で目も眩むような実物のディテール写真を見てビビることはありません。あなたは知った上で、自分のやりたいこと、やってみたいこと、できそうなことを選び取れるモデラーになったのですから。まずは、知ることです。