「映画のセットというのは、観客に見せるだけじゃなく、役者に芝居をさせやすくする役割もあるんですよ」。
今月の戦車模型雑誌「アーマーモデリング 2020年9月号」は、戦場の“背景”、舞台用語で言う「書き割り」をフィーチャー。地面とはまた違ったストーリーを見る者に感じさせる戦車模型の面白い要素のひとつである。多数の作品を掲載し、車両やフィギュアではなく「背景」にぐぐっと寄りまくった内容は今まで知らなかったキットや、マテリアル、製作方法と未知との遭遇の連続である。
本記事の冒頭の文はこの対談から引用したものである。そう、模型においても「役者に芝居をさせやすくする」という言葉はすっと馴染むのである。製作中のアイディアや調べて得た知識などは、すべてその言葉に集約され、見た人が「いいな~」と思うようになる。背景はその例としては非常に顕著で車両やフィギュアに良い芝居をさせる大きな要素である。
モノクロページが凄まじい。本誌のスーパーバイザーでもある戦車模型界のスーパーサイヤ人・吉岡和哉氏直伝の「書き割りのアイディアと知識」の洪水を浴びることができる。切り詰めるとは?切り詰めることで何がどう変わって見えるのか?各国と地域の建物の押さえるべき特徴は?読んでいて超鳥肌。このモノクロページは一生取っておきたいと思える内容である。またこのページの後には、同氏による「壁をリアルに仕上げるための建材別、塗装ティップス」を紹介。美しい写真と、シンプルでわかりやすいテキストによりポイントも把握しやすい。とてもマネしたくなるTipsである。
車両や人を輝かせ、僕たちの世界と模型の中の世界を分ける境界線であり、模型の中の世界を拡大・凝縮させる「背景」=「書き割り」。背景を切り取れば世界は凝縮し、背景を広げれば広大な模型の世界となる。その世界の中で僕たちが、「かっこよく作った戦車」や「フィギュア」にどうすれば良い芝居をしてもらえるのか想像を巡らせるのもこの「書き割り」製作の面白いところだ。そんな戦車模型での書き割りがもたらす面白さを、ぜひアーマーモデリング最新号で体感してほしい。
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)