
安くてパーツ数の少ない飛行機模型は、サクッとカタチになってよろしい。そうめんを啜るように、サッと作りたい。とくにハセガワの「安い方のファントム」なんて、どシンプルだ。いつでも手に入って、あっという間に組み上がる。
飛行機模型の最初の工程は、コクピットであることが多い。こまごましたディテールが集中して、塗り分けもいっぱいある。作業に没頭すれば楽しいが、やることが多くて面倒だとも感じる。決してカンタンだとは言えないこの作業、これが億劫でなかなか製作のスタートを切れないとか、ここで息切れしてしまう人、多いのではないだろうか。

どーんとクローズアップする。作業しているときの視界はこんなもんだろう。とにかく、「ディテールがあるからこれを全部塗らなきゃいけない」とか、「操縦桿やフットペダルがパーツ化されていないから作らなきゃいけないのかな」とか、この解像度だと考えてしまうのだ。

戦闘機のパイロットも夏の暑さで溶け気味だ。あなたはこんなとき、どうする。
「塗ったところでうまく見えない」とか、「これじゃあディテールがさっぱりわからないからサードパーティーのイケてるパイロットをスカウトしてこよう」とか、なんなら「彼らはなかったことにして、無人の戦闘機を作ろう」とか。
もったいないぜ。考えている時間がもったいない。いまはインターネットの時代。展示会だっておいそれできないんだから、顔を近づけてこのパイロットを見る人はいない。このボヨンとしたプラスチックがパイロットらしく見えれば、それでいいんだ。

ぺろりとオレンジを塗る。この時代の自衛隊のパイロットはオレンジのフライトスーツを着ていた。顔も「このへんが顔かな?」というところを薄めた茶色でサッと撫でておけばいい。
説明書に書いてある塗り分けは、シートベルトと手袋と、酸素マスクとホース……。「こんなもんだろ」という色を適当に選んで、それっぽく。

「うわ、きったねえ!全然ヌルくて見られたもんじゃない!」と悲鳴が聴こえてきそうだ。靴だって塗ってないし、適当すぎるんじゃないのか。
……しかしそれは、こんな巨大な写真で見ているからだ。落ち着いて、思い出してほしい。

ほら、そこには確かに、オレンジのフライトジャケットに白いヘルメットをかぶったパイロットが乗っている。さっき見たコクピットのサイドコンソールなど、微塵も見えない。「だから塗るな」とは言わない。この写真を見て、塗るか塗らないか、どれくらい塗ればいいのかをちょっと考えてほしいのだ。
精緻なコクピットにリアルな人間が座っている様子をグーンとクローズアップして見せたいのではない限り、飛行機模型の写真というのはこんな感じで撮影されるものである。
世はまさにインターネット時代。写真を撮るのはあなた。あらゆる写真はスマホで消費されて、全体の雰囲気が良さそうであれば「いいね」のボタンが押される。安心しよう。あなたが見せたいのは、雰囲気良く作られた飛行機模型だ。あなたが欲しいのは、「おー、カッコいいっすね!」の称賛だ(そうじゃない日は、ガッチリ作り込めばいいだけの話)。
大事なのは、「いま手を付けているところが全体に対してどれくらいの大きさなのか」「完成したあと、ここってどれくらい見えるもんなのか」を考えること。限られた人生、ひとつでも多くのプラモを作りたいと願うなら、このことをたまに思い出すと、きっといいことがあるはずだ。