プラモで世界を旅する。/少年時代のときめき、「ベルギーの王虎」に会う。

 nipperがお届けする模型旅行。プラモは旅とリンクする。僕たちが机の上で楽しんだ物と出会えることがある……そう、世界中には僕たちにとってのご褒美がたくさん用意されているんだ。

 それらと出会った人たちはどんな景色を見てどんな感動を味わったのか。模型と旅の物語。

 今回の旅のしおりは、昔の模型に入っていた「あの接着剤」と「腕時計」を愛し、様々な国を巡って名だたる名車を見て来た男・プラモ極道による「ラ・グレーズのキングタイガー」。ベルギーで、極道と王虎が邂逅。お楽しみください。

 ヨーロッパ出張最後の日の朝。

 空港に向けて出発する前に、たった1時間ほどプライベートな時間をつくることができた。わたしは夜明けとともに目を覚ますと、まだ薄暗いうちにホテルをチェックアウトし、目的地に向けてシトロエンC5を走らせた。

 緩やかな起伏が続く丘陵地帯の田舎道、グーグルマップを頼りにシトロエンを走らせる。朝の空気が気持ちよかったので、窓を全開にしてみた。通行人や対向車の姿はいっさいなく、道沿いの牧場に放牧された牛や羊の姿だけが朝日を受けて輝いていた。

 やがて目的の村に到着し、クルマをスローダウンさせる。

 教会の尖塔が見えた。その影に、恐ろしく巨大な鋼鉄の物体が鎮座していた。

 無理矢理時間を作ってまでひと目見たかったもの。それは、第二次大戦末期につくられたドイツ軍の戦車、キングタイガーだった。

 ベルギー、ラ・グレーズ村。

 ここは静かで、自然が美しい長閑な村だった。小鳥のさえずりと木々が風に揺れる音しか聞こえなかった。半世紀以上前に、この小さな村で戦闘が行われていたことを示す証拠は、傷だらけのキングタイガーだけのように思われた。

 前面装甲に触れてみた。無言で、冷たかった。

 あきれるほど禍々しい88mm砲は、ただ虚空を指していた。

 ラ・グレーズのキングタイガーのことを知ったきっかけは、子供の頃に近所の模型屋で毎月買っていたタミヤニュース(タミヤが月イチ100円で販売している模型情報満載の冊子)の記事だったと思う。親に買ってもらったリモコン戦車の35倍も巨大な乗り物がこの世に実在している、という当たり前の事実を理解したのは、この記事のおかげだった。

 「見てみたい」と思ったものの、まだ小学生だったわたしにとって、遠い外国の小さな村を訪れるなんてことに現実味はなく、フィクションも同然であった。本物のキングタイガーを見ることなんて一生無いだろう。そう思って、長年記憶の奥に追いやられていたのだった。

 ここを訪れるまでとても長い時間がかかった。長い旅だった。

 出発時間が迫っていたので、記念に数枚だけ写真を撮って、再びシトロエンに乗りこんだ。

 会いたいと思えばきっとまた会える。思いさえあれば人は動ける。そう、またいつかゆっくり来ればいいじゃないか。巨大な鉄の虎に別れを告げた。

 旅であなたの模型はきっと広がる。

タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ ドイツ・キングタイガー(ヘンシェル砲塔)本体価格3900円(税抜き)

プラモ極道
プラモ極道

愛知県出身カリフォルニア州サンノゼ育ち。かわいいネコちゃんと甘いケーキに目がない。