現在YouTubeでタダで見られるアニメなんですが、『OBSOLETE』(オブソリート)というものがあります。突然地球の近所に現れた宇宙人が「石灰岩1tと交換でめちゃくちゃ便利な2.5mくらいの大きさの汎用ロボット”エグゾフレーム”をくれる」という交換条件を持ちかけてきて、それによって人類がどう変わっていくのか、というのを描いたアニメです。
地面を掘ることさえできれば誰でも簡単に軍事転用可能な夢のマシンが手に入ってしまうわけで、貧乏国家だろうが超大国だろうがそこは平等。それを利用して世界に対して喧嘩を売っている武装組織アウトキャスト・ブリゲードと、それを追うアメリカ海兵隊の話が縦軸になってるんですが、その背後の事情(宇宙人の目的とか)はまだ謎。今年の冬に後半が配信されるそうです。面白いしタダなので、全員見ましょう。
このOBSOLETE、聞けばそもそもがプラモデルありきの企画だったそうなんですが、そのキットを広く知ってもらう方法が奮っております。エグゾフレームのプラモが一番最初に世に出たのは、雑誌『月刊ホビージャパン』のオマケとしてだったんですね。ランナー1枚で完結する単純なプラモなんですが、組んでみるとこれがよく動くし、組み立ての単純さも程よい。おもしれーなー、といじっていてハッと気がつくわけです。これ、謎の機械をほとんどタダでばらまいてるOBSOLETEの宇宙人と同じ行為じゃないかという事実に……!
その後もWebキャンペーンで3000人にタダでプラモを配ったり、3Dデータを無料配布したりと、とにかく「エグゾフレームを無料で配る」という行為に発売元のグッドスマイルカンパニーは邁進。「フレームはタダ。あとはキミたちの創意工夫でガワを着せれば、アウトキャスト・ブリゲードみたいに世の中をひっくり返せるかもしれないよ」という、本編同様のメッセージを暗に送ってきているのです。目を覚ませ、僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ!
で、ここまでやったところでようやく、ちゃんと金を取って普通に売るエグゾのプラモデルが登場しました。「MODEROID 1/35 アメリカ海兵隊 エグゾフレーム」と、「MODEROID 1/35 アウトキャスト・ブリゲード エグゾフレーム」だそうです。でも税込で2300円。安いな。で、早速組んでみたんですけど、プラモで見ると、劇中で動いているだけだとよくわかんないエグゾのモダンウォーフェア性をビンビンに感じられるんですね。
例えば海兵隊エグゾの上半身、ここにはモダンウォーフェアみがパンパンに詰まっています。全体の形はストライカー装甲車のようなカクカクした楔形(最近の装甲車両がやたら角ばってるのは、素材の金属が固すぎて曲げたりひねったりできないからだそうです)にまとめられ、シャックルやらフックやらでデコボコ。胸にくっついてるシャックルの形も、ドイツ戦車みたいな「U」の形ではなく「Ω」みたいな形のやつで、これ一発でかなりのモダンウォーフェアみを感じます。あと、背中上面にくっついてるキューポラがただの丸いハッチではなく八角形になってて周囲に細い手すりがついてるのも、「し、市街戦用にゴテゴテした銃座がついてるハンヴィーとかで見たことある~」というムード。いや~おじさん嬉しくなっちゃうよ。
<06/04追記>デザイナーの石渡さんによると、胴体前面〜上面の棒状の部品はワイヤーガイド(トラップとして張られたワイヤーを切るためにワイヤーをカッターに誘導するガイド)だということです。で、「乗員用の手すりでもあります」と教えていただきました。インタラクティブ!
#OBSOLETE https://t.co/pnH823oEYI
EP.1 800万回再生突破!
ということで、
AREX-03”TOAD”
上半身のワイヤーカッター&ワイヤーガイドの図 pic.twitter.com/pMHSjlaEe0
対するアウトキャスト・ブリゲードのエグゾ。一見すると丸っこいんで、「はは~ん、なんかソ連の戦車みたいな鋳造っぽいデザインってことなのかな」と思ってたんですが、どうも組んで見てみると様子が違う。パネルの縁の処理とかに「ここはあんまり分厚い板でできてませんよ」というポーズが見えるのですね。つまりこっちの機体は「最新の複合装甲とかをイジるだけの予算も技術もないから、加工が容易な薄い鋼板をプレス機とかで曲げてガワを作ってるよ」というジェスチャーが仕込まれているわけです。カ~ッ! よくできてんな!!
あと、2体を並べて上や横から見てみると、パイロットの上半身(つまりダメージを負うとすぐ死ぬ部分)に対する防御が、圧倒的に海兵隊の機体の方が手厚いことがわかります。海兵隊エグゾの方が、上半身のフレームに被っている装甲が前方に分厚いんですね。エグゾフレームはパイロットがおんぶされるような形で機体の背中側にのっかるので、上半身前方の装甲はそのまま生存性に関わってくる部分。つまり同じフレームを使っていながら、どっちかというとアウトキャスト・ブリゲードの方がすぐ死ぬわけです。切ないな~。このへんも、プラモで見てみないとよくわかんなかったとこですね。
というわけで「ふ~ん、モダンウォーフェアじゃん……」とか言ってたわけですが、実はこのプラモはオモチャっぽい割り切りもしっかりしてます。というのも、鉄砲のグリップが全部丸棒なんですね。特にアウトキャスト・ブリゲードのエグゾが持ってる重機関銃はグリップから銃を支えるフレームが伸びてるデザインなんですが、その辺全部割り切ってただの棒を持たせる形になってます。つまりこのキットは「劇中の再現」と「遊びやすさ」だったら、ギリギリのところで遊びやすさの方に舵を切ってるんですね。
つっても海兵隊のエグゾが持ってるライフルは劇中でもグリップが丸棒そのまんまだったりして、「オッ、ここはオモチャの都合を考えてるのかな」とか思ってたりしたわけですけども。ただとにかく最近の「ライフルを持っている手/握り手/開き手/開き手パート2……」みたいな感じで手首ばっかり無限に増えていくオモチャには辟易していたところ。こういう「いんだよ鉄砲なんか丸棒突っ込んで持たせとけば!」というストロングな姿勢は断固支持でございます。
というわけで、「複雑現代兵器的なリアル感の演出と、割り切った遊びやすさは両立できる」というのが、このキットの教えてくれた一番重要なことでありましょう。願わくばこれを両立したオモチャがたくさん増えてくれるとおれが楽しいんですけども。つーわけで、みんなもこれ買って机の上をモダンウォーフェアにするといいと思います。あと繰り返すけど、OBSOLETE本編も見ろよな!
■グッドスマイルカンパニー MODEROID 1/35 アメリカ海兵隊 エグゾフレーム
■グッドスマイルカンパニー MODEROID 1/35 アウトキャスト・ブリゲード エグゾフレーム
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。