「艦名」が呼び起こすあなたの心の景色。タミヤ 1/700 日本軽巡洋艦 阿武隈。

 「故郷の景色」を見たいなと思うことが増えました。少しだけ「大人」になったのかもしれません。特急に乗れば2時間ちょっとで着く福島県いわき市。なんだかんだ毎年お正月など節目には帰っていましたが、それができなかったというのもあるのかもしれません。みんな元気かな〜ってね。僕は故郷が大好きなので。そんな時、ふと模型店で再会。人の心と模型はシンクロする。偶然じゃなくて今この模型を手にしたのは必然。「ウォーターラインシリーズ タミヤ 1/700 日本軽巡洋艦 阿武隈」です。

▲僕が艦船模型で模型の世界に戻ってこれた「響」の後に作ったのが阿武隈。当時は最新キット。このキットの佇まいで僕は艦船模型は本当にかっこいい!!と体感することができました
▲毎日見てきた阿武隈高地(手前の川はいわき市を流れる鮫川)。阿武隈という言葉は福島県人には馴染みのある言葉。福島市の人などは阿武隈川を思い浮かべると思います。軽巡洋艦阿武隈はその阿武隈川から名前が取られています

 阿武隈という名は福島県と宮城県を流れる一級河川「阿武隈川」が由来。この阿武隈という言葉は川だけでなく阿武隈高地、あぶくま洞(超綺麗な鍾乳洞)、あぶくま牛乳、僕の地域だと校歌とかにもその言葉が入ってきたりして故郷の人にとっては馴染みのあるワードです。僕の生まれたいわき市植田町は太平洋と阿武隈高地を毎日見ることが出来る場所で、言葉と目で阿武隈は僕の中に染み付いていました。

 上記のリンク記事は、僕が初めて艦船模型と出会った時の体験です。この後にタミヤの阿武隈を作りました。「あ、故郷じゃん」って理由で手に取ったんですね。しかも当時阿武隈は最新キットだったんです。そんなことも知らずにレジェンドプラモの駆逐艦響から阿武隈にすっとんだもんだから、プラの成型のシャープさや組み立てやすさにびっくらこいたもんです。響を作るまでスケールモデルを作ったことがなかった私。「2000年代の艦船模型」に触れたまさにその時こそ「これがスケールモデルかぁ……」と自分の中で本当の模型ライフが開幕しました。阿武隈のダブルカーブド・バウで1人テープカット、スケールモデルラインが開通しました。

 僕は故郷のバイアスがかかってさらに好きになってしまっているプラモですが、この阿武隈は本当に最高の艦船模型です。昨今の艦船プラモは「超ハイディテール」、「接着剤不要」、「パーツごとの色分け」と様々な要素が盛り込まれ複雑化し、良い面と悪い面が顕著に出ている状態であると僕は感じています。一見組みやすそう、完成しそうと思えるものが実は難しくなっていたりします。この阿武隈は2007年に登場したプラモ。今の艦船模型の1世代前にあたるのですが、これまでの艦船模型の実直な部分と、艦船模型を組みやすくするための配慮がすごく良いバランスでまとまっています。世の中にはなんでも「ちょうど良い」という言葉がありますが、まさにこの阿武隈は「ちょうど良い」のです。軽巡洋艦という大きすぎず小さすぎずという点もね。

▲小さいランナーで細々したような構成は阿武隈にはありません。部品は見つけやすく、ランナーは取り回ししやすいです。艦底部の赤もリッチ。艦船模型の艦底パーツが赤いだけで組み上がった時の満足感は一層上がります
▲ウォーターラインシリーズ共通の部品セットも封入
▲窓、舷外電路(船体側面にあるライン状のモールドがそれ)が美しいです。

 タミヤからは阿武隈と同型艦の長良も発売しています。同型艦でも艦首の形状が長良と阿武隈は大きく異なり、そのため船体は専用のパーツ。ダブルカーブド・バウと呼ばれる長良型では阿武隈のみが持つ艦首を楽しめます。女性の柔らかな腰のラインのような美しさです。

▲リノリウム甲板と艦首側の甲板がワンパーツ。昨今の艦船模型はリノリウム甲板が色分けされ別パーツになっているものが多いです

 昨今は甲板は成型色で色分けされたりしてパーツ分けされることがあります。嬉しいのですが、精度が悪いとゆがんだりワギワギしたりします。1/700スケールだと精度や強度が必要でよりシビアになってきます。阿武隈が発売された 2007年はまだそのような流れではないので、このように一体成型。無理のない甲板のパーツは船体にスッとおさまります。

▲機銃などの小さなパーツ精度も現在の艦船模型となんら遜色なく、実物の特徴的なディテールを拾ってしっかりと造形されています
▲小さい艦船模型のパーツを貼りやすくするために、各パーツの軸は大きめ&ガイドが設けられています。このような配慮がそこかしこにあり、とても組み立てやすいです

 上の写真のような接着のしやすを考えた構成は、後に新規で発売された1/700 島風でさらに引き継がれます。島風もオススメですよ。では阿武隈を組んでいきましょう。

▲艦船模型を組む時は、下に箱などを置いてパーツの紛失を予防しましょう。バンジージャンプの時のマットですね
▲接着剤はタミヤ白蓋のような粘度の高いものと流し込み接着剤を用意。ピンセットは精度が良いものを用意しましょう。接着剤の使い分けが鍵になります
▲装甲板を合わせるようなパーツは、合わせ目にさっと流し込み接着剤を流して固定します
▲艦橋や船体に貼る小さなパーツはこのように粘度の高い接着剤をチョンチョンと塗って
▲所定の位置に貼ってあげましょう。このように接着剤の使い分けを覚えるだけで、艦船模型の組み立てスピードもグッと上がると思います
▲ウォーターラインの完成後のずっしり感を演出する「バラスト」。僕はバラスト好きなので入れます。お好みでどうぞ
▲迷うところは一切なしで組み上がる阿武隈。あ、後ろのマストが曲がってますね〜。今度直そう〜

タミヤのリッチなグレーは塗装せずとも素晴らしい質感。この佇まいに当時本当にやられました。初めて阿武隈と出会った時の衝撃を今落ち着いて受け止めています。このパーツの組みやすさの配慮、ランナーの構成のシンプルさなど当時はきちんと消化できていなかった「ちょうど良さ」を再発見することができました。艦船模型としてこれだけのバランスの良さを保っているものは唯一無二と言えると思います。それだけ素晴らしいプラモです。

 僕にとって阿武隈は人生の風景。日本の地名や河川、山などの名称を冠する艦船は、あなたの心の風景をもう一度呼び起こしてくれるかもしれません。あまり移動ができない今、机の上の艦船模型で心の旅を楽しもうと思います。次はどこへ行こうかな。

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フミテシ

1983年生まれ。月刊ホビージャパンで12年間雑誌編集&広告営業として勤務。ホビージャパンで様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。「ホビージャパンnext」、「ホビージャパンエクストラ」、「ミリタリーモデリングマニュアル」、「製作の教科書シリーズ」などを企画・編集。