
つい先日まで毎日のようにSNSや地上波の情報番組でその様子が紹介されていた中国の人型ロボット運動会。ついに人間の世界記録を超える記録まで飛び出すようになって、人型ロボットの最先端は中国を中心に発展しているんだなと実感するに十分なイベントだった。
そんななか、「昔は日本が人型ロボットの最先端だったのに逆転してしまった…」という文脈で引き合いに出されるのが「先行者」だ。四半世紀前に中国で開発された二足歩行のヒューマノイドであり、当時の日本の最先端ロボットたるASIMOと比較されながら「とても追いつけなさそうな技術格差」の象徴のように語られた。
そのお世辞にもハイテク感があるとはいいがたい姿から、当時のネット上でネタとして散々いじり倒されて悪ノリ要素が加えられていき、股間からミサイルを発射する「中華キャノン」というネットミームキャラクターににまでなってしまった。そしてその「ネットミームとしての中華キャノン」のプラモデルが存在するのだ(!)。

その出自は、パソコン・ネットカルチャー誌『ネットランナー』の2002年7月号の付録だった。筆者も当時その存在は知っていたのだけれど、当時の金銭感覚(今に至るおまけを同梱した分価格が上乗せされる雑誌自体がまだ珍しい時代だった)ではこのネタに対してサクッと手が出せずスルーしていた。今回、知人のツテでキットを手に出来たので紹介したい。

本来は雑誌と同じ判型の薄い箱に入っていたらしいのだけれど、今回手に入ったのは箱のないビニール袋に入った状態。中に入っている紙は実は説明書ではなくチラシで、メッキ版の通販とコンテスト開催の告知、他に設計、生産を担当したアオシマの広告が入っている。説明書は箱にプリントされていたそうで、今回はネットの写真を見ながら組み立てた。プラ成形のランナー1枚とポリキャップのランナー1枚、そしてミサイル発射用のスプリングが同梱される構成。

あくまでも「ネットミームとしての中華キャノン」のキットなので股間にミサイル発射機構(実際にスプリングで発射可能)がつく。一方でこの中華キャノンの元ネタはまぎれもなく「先行者」なのでフレームをはじめと胴体内部のメカの形状は先行者に準じた造形がなされている。中華キャノンはフィクションだが、明確な元ネタである実在ロボの「先行者」を参考というか観察して作られているわけでその点ではスケールモデルであるとも言えなくもなくて、形而上学的な投げかけじゃないかとさえ思える不思議な成り立ちをしているな……。

まだCADが導入されたかどうかという時期の雑誌の付録キットにしては結構芸が細かい手足。肘膝のポリキャップは独特な構造でポリ軸の外周をプラ受けで囲み、ポリ軸に開けられた穴にプラ軸のストッパーを差し込みで閉じることで極コンパクトでありながらポージングで遊べるだけの耐性をもった関節を実現している。

肩と股間のボールジョイントはあまりにボールが小さいので心配になるけれど、ポリ製の受けで保持力も十分ある。アオシマはこの製品の少し前に自社製ロボットプラモとしては初めてポリキャップによる全身可動を導入したガオガイガーをキット化(1999年)しているんだけれど、その巨体に対して保持力が今一歩足りないといった塩梅の仕上がりだった。それがこのキットでは実装困難に見える小サイズにポリキャップを仕込むという真逆の仕事をこなして、なおかつ適度な保持力を実現してみせている。ちょっとアオシマ製品史としても面白い存在に思えてきたな。

ミサイルは3発付属して、スプリングによって結構な勢いで発射される。もともと子供向け商品として展開しない想定の中華キャノンの面目躍如といったところか。腕はオプションでドリルのものと換装できる。繰り返し言うけれど中華キャノンとしてのオプションであり、実在する中国のロボット『先行者』のオプションではない。そして、ごらんのとおりごく単純な棒人間のようなスタイリングに期待する通りのポージング能力を発揮してくれる。トイライクな遊びに十分答えるポテンシャルを備えたキットだったりする。

あくまでもこのプラモは『先行者』ではない…んだけどこうやってウェーブのPシリーズをはじめとした実在ロボットプラモと並べると実機の時代の近さもあってネットミームとしての文脈を差し置いてアカデミックな景色に見えてくる…。改めてちゃんと『先行者』としてのスケールプラモが欲しくなってくるよ…そして先の人型ロボット運動会で話題になった最新のロボット達のプラモも並べたいよな……。メーカーの皆さんお願いします。なんて書いてるそばから実は海の向こうでは知らないうちに出ていたりしない?静岡が”模型の世界首都”だなんだと言ってるうちに置いてきぼりを食ってたりしない? 僕たちはそんなことを心配しちゃう時代に生きているんだな。