
7月に開催されたワンダーフェスティバルのイベント内イベント、「横山宏展2026」はかなりハッピーな空間だった。横山宏という稀代のアーティストにしてプラモデル大好き人間が作り上げてきたマシーネンクリーガーという世界と、その無数のフォロワーによって作り上げられた数々の立体物が集まる祝祭であり、その不思議でカッコイイ造形と素敵な色彩はどれをとっても見ていてニコニコしてしまうものばかり。
マシーネンクリーガーのすごいところは背後の文脈を知らずとも否応なく惹かれてしまうカタチ、そしてそれらが纏う手仕事感のある塗りであり、アーティストのワンオフモデルがプラモデルになり、それをみんなが手に入れて思うさま塗ってもいいのだというある種の「赦し」みたいなもの、模型の世界におけるひとつの救済としても機能しているところにあるのだと改めて感じた。

上の写真はハセガワの新製品、「反重力装甲戦闘機 Pkf.85 ファルケ “グリフォンエッグ(G EGG)”」の塗装見本だ。横山氏によればこの滑らかなブルーは面相筆で細かく塗り込まれたものらしく、じっくり見るとスジ状のまだら模様があって、パネルラインに沿って書き込まれた汚れは案外タッチを隠そうともしていないことに驚かされる。レンブラントの絵画をヒキで見るとものすごく写実的でどこまでも緻密に描き込まれたように感じられるのに、拡大しまくると「すげえ大胆に筆のタッチがあるじゃんか!」とビビるのと同じ現象がここにある。
筆塗りの面白いところは「最終的に全体が美しく精緻に見えるのと、ミクロのレベルでの精緻さを積み上げることはイコールではない」という点にあり、これは一朝一夕に身につくものではないけれどみんながチャレンジしたくなる理由でもあるのだろう。

あの日ワンフェス会場で見たファルケのおかげで私の脳はずっとムズムズしていて、結局マックスファクトリー製の1/35ファルケを自分も塗ることにした。もこもこした曲面の連続、カキっとしたパネルライン(外板の継ぎ目)、そして規則的に打たれたリベット。実在するいろいろなメカの艶めかしさと合理性を翻案したマシーネンクリーガーならではのパーツがそこにあるだけで楽しい。エアブラシやスプレーでペタッと塗ればおそらくパーツがもともと持っている滑らかさを忠実に塗膜へと移し替えたような結果が得られるだろうが、ここに筆が走ることでタッチが生まれ、違う表情になってくれるはずなのだ。

こまごまと入ったディテールから意味めいたものを見いだすことはできるかもしれないが、やはりこうした彫刻の粗密も「模型の表面にある明暗、あるいは情報のコントラストをコントロールするもの」として機能するわけで、これは絵画や彫刻における視線誘導……つまり全体のフォルムと思わず目を留めてしまう”注目ポイント”の制御を巧みに取り入れた造形なのだなと感じる。
筆塗りはエアブラシやスプレーで一気に色を塗るよりも明らかに時間がかかるし、塗料の濃度や筆の動かし方が体得できなければ偶発性が高い。言い換えれば「うまくいくか否かを制御しにくいし、けっこう根気がいる」という意味で、正直なところ私は最近自分の模型ライフから筆塗りを遠ざけていた。しかし、横山宏展2026の展示からは間違いなく「やっぱり筆塗りは面白いんですよォ」「筆塗りにこそ、塗るという実感があるんですよォ」という横山氏の声が発せられていたため、私はその声からどうしても逃れられなかったという次第なのだ。

色を選ぶのも昔よりはちょっとうまくなったし、これはどうだろうあれはどうだろうと買い集めてきたいろんな種類の筆もある。塗料は濃いのをドライ気味に乗せるのか、薄いのをウェット気味に乗せるのか、そんなのいろいろ試してみなければ自分の身体にきちんと定着してくれない(もっと言えば、あれこれ本を読んでいるだけでは全然身につかなかった)。そう思っておもむろにファルケを塗ると、ここのところ忘れていたプラモデルを塗ることの不思議さみたいなものがスッと蘇ってくるのを感じた。カッコいい仕上がりになるかどうかはわからないけど、このファルケは納得行くまで少しずつ塗り進めようと思っている。