
巨大な爆薬に車輪をくっつけてロケットモーターをくっつければ高速で転がっていって敵陣を爆破できるのではないか。百歩譲って思いつくのはいいけど本当に作るかよ、というのがイギリス軍の試作兵器、パンジャンドラムです。砂浜でまっすぐ進むわけもなく、動作はとっ散らかり放題。試験はことごとく失敗し、イギリスの珍兵器として人類の記憶に刻まれることになるのでした……。
現在ではその計画や試験そのものが二次大戦中に上陸作戦を警戒していたドイツ軍を欺くための壮大な囮作戦だったのではないか、という指摘が広く支持されています。連合軍の上陸地点はノルマンディーではなく強固な要塞がある場所なのではないか。そして海岸に近づいた船からこの狂った車輪のような爆弾が転がってくるのであればそれに対して何かしらの対策を打っておくべきなのか、いやマジで何考えてんだイギリス人……とドイツ軍司令部が混乱に陥ったかどうかは定かではありません。で、そのプラモデルよ。

陸戦兵器ですから1/35であれ、という心意気がまず良い。直径9cmほどのホイール、中心にあるドラム缶のような爆薬、そしてそれを推進するための18基のロケットモーターがパーツになってランナー(ワク)に収まっています。左右対称な兵器だから同じ形のランナーが2枚入っている、という金型効率の良い商品です。

組み立て自体になにかエキサイティングなところがあるかというと、むしろ修行じみた工程がほとんどです。ロケットモーターを車輪に固定するためのステーを18回、ちまちま接着していくのは人生のなかでもかなり謎な時間に分類されるでしょう。これが華々しい戦果を上げたのならまだしも、失敗失敗兵器というか……要は実用化できないことが半分分かっている「偽の試作」だったわけですから、演劇の大道具とかのほうが機能としては近いのかも。

ロケットモーターをホイールに取り付けるのもなかなか繊細な作業でして、向きと位置をしっかり決めてピシッと貼らないとサマにならない。そもそもこんな巨大なもんが転がるための推進力を発揮するのにこんな弱々しいステーで大丈夫なのか。大丈夫じゃないからロケットモーターがボロボロ外れて所定のコースを外れ、大暴走するんですよ。ギャグかな。ギャグだと分かってやっていたのならマジですごいよイギリス人。

しかし完成するとそこには人類がプラモデルという形態で初めて目にするパンジャンドラムの姿が現れます。いいですねぇ。なんでもプラモデルになっていいのです。それが戦車や兵士と同じ縮尺であればなおよろしい。このイカれた兵器がどれほどの大きさだったのか、荒唐無稽なものだったのか、いや案外スジの良いアイディアだったのか。プラモデルを組んで、転がしてみて、それで感じ取れることが必ずあるのです。

見ようによっては「ドローン兵器」の遠い親戚であるという評価もされているパンジャンドラム。ネットミームとして散々コスられているモチーフではあるのですが、生真面目な設計と生真面目なスケール選択によって、おそらくそのコンセプトを知るもっとも良い立体として長く愛されることになるでしょう。皆さんの机の上にも、ぜひパンジャンドラムを。大事なあの人にも、ぜひパンジャンドラムを。きっと誰もが笑顔になるはずです。