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【レビュー】実写版とは何か!リアルでアナザーな存在のプラモデル/ゴーイング・メリー号 -A Netflix Series: ONE PIECE-


 Netflixで実写化された人気マンガ『ワンピース』。作品に寄らず賛否が別れる「実写化」なんだけれど、我が家は楽しく見ている。実写化というと人物キャラクターが生身の人間に置き換わることに引っ張られて、周辺の小物や背景そして海賊船に至るまでが「リアル」にアレンジされていく。
 そんな「リアルになった」海賊船ゴーイングメリー号のプラモ。今まで結構な数のワンピースに登場する船が「偉大なる船」コレクションとしてラインナップされてきたけれど、あくまでもマンガのコミカルなデザインの立体化だった。そこに唐突に「写実的リアリティ」でデザインされたNetflix版が加わったってとこがもうすでに面白い。

 プラモデルの大事なところに部品単位での具象性というのがあって、甲板とか壁面とか漠然と木の板の継ぎ目が入っただけの板では味気なくて、かと言ってほとんど出来上がっているような状態では組み立てが退屈。ある程度のそれが何であるか主張が欲しい。その点このキットの塩梅はとてもイイ。

 具象性のお手本のような部品の集合でできた下層甲板。酒樽や貨物、階段があらかじめ一体に成形された床部品。連なっているように見える壁面は勘合のための下地でしかなくて、ディティールの入った壁面の板を差し込むことで全容が現れる。さらに階段の手すりが加わることでデコラティブさが生まれる。船の外観を構成する箇所ではないんだけれど、人物キャラクターのいる「場」としての存在感が立ち上がっていくのが面白い。


 木造帆船表現として木の板の並ぶラインが彫られている。アニメ版のプラモデルにあった長手方向の継ぎ目やリベットはない。ディティールの取捨選択の演出もあくまでも実写版の模型として作られている。

 木造帆船に詳しいわけじゃないので実際のトコはどうか知らないのだけれど、この船体だけ見れば昔の海賊ってこんな船に乗っていたのかぁリアルだなぁ……くらいの感想を抱いているんだけれど……。


 わぁ、甲板にやたら収まりのいい木が生えてるぞ!ってとこで「そうだ、ワンピースは実写になってもあくまでフィクションなんだった…」とメタな視点に引き戻される。原作の「漫画の手触りとして用意した面白み」にNetflix版が「実写化するにあたって加えた現実感」の味わい。

 そんな漫画と実写の演出の差からくる一番インパクトのある違いはこの船首像。一気に写実的な表現になっている。文字通り船の顔の変化は「実写化≒リアルになる」という暗黙の了解の具現化と言える。


 写実的になるとこれが羊なのかヤギなのかさえわからなくなってくる。そもそも自分はヤギと羊を何で見分けていたのか?羊なのにもこもこしてない。あれ?でも原作も羊毛の表現の入っていない像だったよな…突然そんなことを思い出す「じっくり見れる」ってのはそれだけでいろんな考えを呼び起こしてくれるのだな。



 手すりの装飾の密度感も合わさってゴージャスな艦首まわり。大砲はごく小さな部品だけれどスライド金型を使った成形で砲口がしっかり開口されている。

 他に実写版ならではの造形としてはマストから貼られた網状のロープ(シュラウドというらしい)。成形の都合上、穴が埋まってしまっているけれど、ロープそのものは実感溢れる彫刻。

 
「実写化に相応しいリアリティのあるアレンジを加える」っていうアプローチ自体はガンプラと同じ。違うのはガンプラがプラモデル化にあたってのアレンジなのに対して、このプラモはNetflix版の実写映像の姿を”再現”するスタンスであるところ。プラモデルとして「リアルを加えた」わけではない。作ってる間中、そんなメタな視点での思考がグルグルしていた。僕たちは何をもって「リアル」って言ってるんだろうねぇ…なんてね。




 帆はキャンバスの質感を演出するためのテクスチャーが練り込まれた成形色。あの手この手で、実写表現の持つ「現実と地続きであることを錯覚させるリアリティ」をくすぐろうとしてくる。

 三角帆の縞々はホイルシール。縞々の境界が線として彫刻されることは無く、骨と接するキワの形状で位置が決まるようになっている。


 メインの帆の麦わらドクロマークは薄くて曲面にも良くなじむ素材のものが、ここだけ別シートで用意されている。船首像と並ぶシンボルだからね。
 

 完成した姿を目の前にすると、マンガの絵柄のポップでカワイイって印象に染上げられていた脳内のゴールデンメリー号に「カッコイイ」という形容詞がインストールされた。「渋い」とかも入ってきたな…。映像を観た時点ではプラモが欲しい!っていう渇望感はそれほどでもなかったのに、何となく手にして組み上げた今は「俺はこれが欲しかったのか!プラモ化してくれてありがとう!」という感情が溢れている。「組み立てることでモチーフに対する好感度が爆上がりしてしまう」タイプのプラモデルなんだな。
「とてもリアルだけれどアナザーな存在」の面白さが際立っているよ。

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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