
「完成品フィギュアの名作がプラモデルになりました」と聞くと、つい「完成品があるのに?」と思ってしまいます。ところがGOOD SMILE COMPANYの「Reincarnation」シリーズでやってきたセイバー・リリィは、その疑問に答えてくれるアイテムです。プラモデルは「同じ立体の廉価版」じゃなくて、あくまでも「固定されていた名作を、指先で読み直すための立体」という感じ。ポーズもモチーフも以前の完成品を踏襲しているように見えるんだけど、組み立て式になった瞬間に立体の面白さを捉える角度が変わるはずです。

まず、いちばん推したいのがプラスチックで表現されたシルバーのパーツ。鎧の質感がとにかく良くて、塗ったかのような金属色に見えるのですが、これがプラスチックの成形色だというのだから驚き。キャラ系プラモで色分けが進んだとか、塗らなくても見栄えするとか、そういう話は今さら珍しくないんだけど、これはちょっと別格に見えます。

白いドレスの成形色も同じで、ただの真っ白じゃなく、ほんのりピンクがかったパール寄りのサテンみたいな調子になっています。白なのに安っぽさがなく、「普通のプラモデルでも使われてほしい」と言いたくなる色合い。また、乳白クリアー系のパーツも効果的です。完成品フィギュアでも薄い素材の表現に乳白クリアーが使われることはあるけれど、プラモデルで改めてパーツとして手に取り、組み込むことで、初めて「あ、ここはこういうレイヤーの表現だったのか」と気づけます。パニエやインナー、レースといった意匠の表現って、完成品だと結果だけが目に入るのに、プラモデルだと過程が前に出てきます。これが「完成品があるからいいじゃないか」とはならない理由で、完成品の存在はむしろ比較対象じゃなく、入口になるんですよね。

そして一番おもしろいのが、完成品をそのままバラしたのではなく「プラモデルに翻訳する」ための割り方が入っているところ。PVCで成立していた一体表現は、硬質プラにすると厚みや抜きの条件が変わるから、そのままではプラモデルになりません。だから胸のアーマーが付いていないドレスのラインがどう繋がっているのか、リボンの厚みをどこで前後に割るのか、肌の部分をどこで分割して破綻を避けるのか、そういう設計的な判断が随所に見られます。完成品の時代には見えなかった設計の意志が、接合線やパーツ構成として現れてくるのが、プラモデル化のいちばん美味しいところです。

組み立て自体は難しくありません。顔はタンポ印刷(アイプリント)済みのものが付くから、組むだけで「セイバー・リリィの顔」になってくれるのは正義。キャラ物って、顔が命だしね……。そのうえで、塗装派のために未塗装の顔パーツや水転写デカールも付属する。つまり「組むだけで完成」というゴールも設定しつつ、「塗りたい人が分け入っていく道」も残してくれています。合わせ目消しなんかも含めて、モデラーのやることが残っているから、完成品の追体験で終わらず、あなたの腕でさらに立体を強化できる余地があります。

細部の変更点も、こういうキットでは効いてきます。たとえば鞘の扱い。完成品では空中に浮かせる処理だった記憶があるけれど、今回は鞘を持ったポーズに変更されています。単なる省略や簡略化ではなく、立体&組み立てキットとしての折り合いが見えるのも、プラモデル化の面白さです。紋様みたいに「ここはデカールが欲しいよね」と言いたくなる箇所が出てくるのも含めて、完成品のではただ眺めていたところに手を入れる理由が生まれてきます。

このセイバー・リリィは「Reincarnation」という名前をちゃんと回収しているのも気持ちいいプロダクトです。オリジナルのフィギュア造形を担当した河原隆幸が一部造形をブラッシュアップした、というのは宣伝文句としても強いけれど、それ以上に「完成品では触れなかった裏側や接合面に、造形の手つきが見える」というのがガレージキット世代の自分には深く刺さります。いまはデジタルで造形ができる時代だけど、少し前の名作には、原型師の手技が「パーツの裏」に宿っていることがあるからね……。完成品では見えなかったところが読み取れるうれしさ。名作をもう一回買わせるのではなく、名作をもう一回理解させるという方向に振り切っているから、これは当時持っていた人にも、完成品に憧れていたけど縁がなかった人にも、大きな意義のある一作だと思うのです。