770円の衝撃。40年の時を超えて、ガンダムふたたび大地に立つ。

▲ENTRY GRADE 1/144 RX-78-2 ガンダム

 300円で買える真っ白のガンプラが1980年当時のキッズを熱狂させた、というのは本を読んで知っているけど、いまのガンプラを見るとにわかには信じがたい。

 いまも新製品が続々と発売され続けているガンプラは、接着剤を使わずに、ただパーツを切り離してパチパチと組み上げるだけで全体を塗装したかのような仕上がりになるのが当たり前になっていて、人間でもできないようなポーズをとれるほど各部の関節は動きまくるようになった。

 パーツは増え、デザインは何度も再定義され、もはや「次はどのモビルスーツがプラモになるのか」よりも「次はどんなバージョンのガンダムがプラモとして登場するのか」という、スケールモデルでは考えられないような状態。

 それはまるで、グラウンドを何周も何周も走り続けて、ただひたすらに速く、ただひたすらに美しくフォームを整えていくランナーのよう。

 エントリーグレード ガンダム(以下「EGガンダム」)に添付されたこの文言。ガンダムって何? ガンプラって何? それを自問するかのような説明書は、すなわち「ガンダムもガンプラも知らない、まっさらなキッズに向けたもの」として書かれたものだが、その言葉たちはオトナの僕たちにも突き刺さる。

 オレたちは、バンダイスピリッツは、一体何を作っているのか。

 ガンダムだ。RX-78というモビルスーツのカタチと色を、もういちどまっさらなグラウンドで、イチから考え直してみる。エントリーグレードという「プラモに触れたことがない人」を対象にしたブランドで、ハードなユーザーの要求や商業的な要請からくるデザイン的な新規性を一旦脇にどけた状態で。ただひたすらにシンプルに、カタチと色を構築する遊びとしてのガンプラを。

 特徴的な黄色いエリ。胸ダクトが近い。よし、いっそひとまとめにしてみよう。真ん中にできた空間には胸の下側と腹を前後で受け止める機構が作れるぞ!という設計マンの快哉が聞こえてくるようだ。

 このプラモは上下、左右、前後にカタチをただただ分割していけばなんとかなる従来の製品とは一線を画する。EGガンダムは、ひたすらに組み立てる手数を減らすための詰め将棋の果てに結実した、驚くべき解体と再構築のドラマに満ちている。

 前後に割るのが当たり前だった青いパーツを上下に割って、首や腕を据え付けるための基部を胸ブロックに。コクピットブロックとダクト下側は一体として、背面には腹の下部を腰の動きに追従できるようキープするためのボールジョイント受けを設けている。

 ガンプラを作り慣れている人からすれば見たこともないような組立工程は新鮮で楽しい。何もかもを徹底的に再現するために細分化するのではなく、「結果としてガンダムのデザインが再現されているように見えるのはどのラインか」というクレバーすぎる引き算の連続。もしもこの構造であのメカをプラモにしたらどうなるだろう。ザクなら?零戦なら?タイガー戦車なら?

 腰アーマーに付いた黄色いブロックも骨盤と一体化しようというアイディア。ついでだからとサイドアーマーの受けや股間のVサインも同じパーツに盛り込んでしまう八面六臂ぶりには思わず笑みがこぼれる。

 ただ機構を一体化して効率化するだけでなく、見立てや省略によるコンパクト化にも痺れる。ずいぶんと思い切って「ガンダムの構造」よりも「ガンダムに見える外観」を再現するため、イン側ギリギリを突いてコーナリングしていく。

 もちろんのこと、このアイテムはエントリーグレードの他のアイテムと同様、ニッパーを使わなくても組めるようゲート(ランナーとパーツを繋ぐ場所)が極細になっており、手でちぎって組み立てることができる。しかし、ロボットプラモとしての大きなバリューである可動ギミックに対する執念は忘れていない。

 惜しむらくは、説明書の組立工程において3/4がモノクロ印刷であったこと。ただでさえ同シリーズの既発アイテムよりもパーツ数は多く、可動のためにやや込み入った部分もある。コストとのせめぎ合いを感じる部分だ。

 組み上がってみると、奇しくもこのプラモが「フレーム/外装」の関係ではなく、優れたモノコック構造をなしていることに気付かされる。ユニット自体にガシッとした剛性感があり、ポーズの幅は広くとも可動部が多すぎてキレイに立たせるのが難しいという最近のガンプラとは異なる手触りになっているのも特筆すべき点だろう。

 また、腰ブロックから太もも、足首アーマーからつま先へとつながる一連のラインはこのモビルスーツの美点をうまく表現できていることも書き添えておきたい。

 組み上げた状態で「こんなに動く!」「こんなに色分けがされている!」というレビューはすでに数多く見られるが、色分けと可動はガンプラが掲げてきた大きな大きな命題である。

 このEGガンダムの大トロはむしろ、「ガンダムに見えるモノ」をどこまで少ない手数で、抜かりなく表現することができるか?というこれまでにないチャレンジのために膨大なアイディアを詰め込んだパーツたちと、そのアイディアたちによって実現されたランナーのコンパクトさにあると私は思う。

 そしてもっとも大事なのは、このプロダクトが新しいモデラーに発見され、その仲間を増やしてくれることである。ガンプラ40周年、ここに再びガンダムは立ち、「組み立てる楽しみ」を教えてくれようとしているのだから。

<em><a href="/author/kalapattar/">からぱた<br></a></em><a rel="noreferrer noopener" href="https://twitter.com/kalapattar" target="_blank">@kalapattar</a>
からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。