

そりゃあもう、美しかったのである。イギリスのどんよりした曇り空の下にあってなお、白と水色のツートンカラーは燦然と輝いていて、ベニヤと布でできているなんて信じられないほどに行き届いたレストアもすばらしく、もはや飛行機というよりもピカピカの鉄道のような魅力を放っていた。戦間期特有の華麗なフォルムとディテールを、いつかこの姿を自分の手中に収めたい、と心の底から思った。
いつかプラモデルが欲しいなと思っていたデ・ハビランド DH.89 ドラゴン・ラピードが、ウクライナのアーモリーという会社から1/48スケールで発売された。機体の大きさのわりには結構な値段だけど、夢見た飛行機を手に入れられるのならそんなのお構いなしだ。こういう巡り合いは後生大事に取っておいてもしょうがない。手に入れたら、なるべく早く手を付けるのがいい。

旅客機の椅子をひとつひとつ組むことになるなんて(これが旅客機の模型であることをわかって買ったはずなのに!)まったく予想していなかった。どうせ完成すれば機体内部は窓越しにチラッと見えるだけなんだから、「それっぽい椅子」があればいい……なんて甘えた言い訳は許してくれない。

背もたれ、左右の肘掛け、前後の足と補強のパイプ。ひとつのシートに7つのパーツ。パイプはシャープペンシルの芯ほどの太さで、接着のためのノリシロなんてほとんど考えていない。いつか気力が充実したら……いつかたっぷりとした時間が取れたら……と先送りにするのはもうやめたのだ。いつか作りたいものは、いま作ろう。納得いかなくて、またやり直したければそのチャンスだって必ずある。

ひとつひとつのシートの出来はバラバラ、背もたれの角度もちょっとチグハグ。でも、1時間ちょいで8つの客席が出来上がって、あとは簡素なコクピットを作れば機体内部の工作はほとんど終わり。ここから先はあの日見た飛行機のカタチを仕上げていく楽しい工程に突入だ。
このキットの細かすぎる(おそらく設計理念通りには機能しないであろう)エッチングパーツや神経質なパーツの合わせは正直「誰にでもオススメ」というわけにいかない内容だ。でも、自分の好きなモチーフがプラモデルになったら、エイヤと挑むのが絶対にオススメであることには間違いない。少々思い通りにいかなくたって命を取られるわけじゃないし、誰かと競争しているわけじゃない。プラモデル遊びに「機が熟すこと」なんて、たぶんない。いまここにある熱い気持ちだけが、やっかいな工作に打ち勝つ唯一の武器だと思う。