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『サイバーフォーミュラ』のイシュザークに宿るプラモデルの設定遊びに「リアルロボット文脈のサービス精神」を見た!

 これは新マシンの発表会をイメージしたシチュエーション。アニメ本編で直接的に描かれたシーンではない。アオシマの1/24サイバーフォーミュラシリーズのボックスアートは今ではちょっと他に類を見ないくらいのサービス精神に溢れている。最新作であるイシュザーク 00-X3/Ⅱもその例に漏れないサービス満点の箱絵を用意してくれている。そのボックスアートを担当しているのは原作アニメでメカニカル作画監督を努めた重田智氏。今なら大ヒット中の『劇場版ガンダムSEED FREEDOM』のメカニックアニメーションディレクターも務める同氏による描き下ろし!…といったほうが通りがいいかもしれない。


 このシリーズのボックスアートの何が凄いかというと「組み上がるキットとは別のアレンジで描かれている」のだ。カウルの厚みとかキャノピーライン、インテークのフィンの有無とか、パッケージイラストとプラモデルは確かに同じモチーフだけど別モノ。「かつてのリアルロボットプラモデルの箱絵」がキットにないパネルライン等のディティールを加えた「盛った姿」で描かれていたように、あくまでも「箱絵はイメージビジュアルです」というレトリックのもとに描かれているのだな。

 さて、キット本体は河森正治氏による設定画準拠で造形されていて、箱横やHPに掲載されるメーカー完成見本も色やマーキングに至るまで設定画に即した仕上がり。……にも関わらず、箱を開けてデカールシートを見ると箱絵にも完成見本にも見当たらないマークが大量に収録されている。説明書にはちゃんと貼り位置が指定されているのだけれど、商品箱横の説明でこの存在にふれることもなく箱を開けるまでさっぱりわからない。このデカールをひととおり貼ったメーカー見本も、発売時点で何処にも見当たらない(!)。そういう意味ではコレもサービス精神の炸裂と言えちゃうな。

 このデカールで面白いのは、シーズン途中で動力系を刷新する劇中設定を拾ってパワーユニットメーカーのロゴが二種類入っている所。シーズン第10戦以前(シュトロブラムス社製リニアホイール搭載型)と第11戦以降(ユニオンセイバー社製水素エンジン搭載型)をデカールの違いで表現できるようになっているのだ。でもその設定自体を説明することはしない。その態度がなんだかスケールモデルっぽい(「実物がそうなっているから」に帰結するので)。そういう意味じゃ「サイバーフォーミュラの世界線で売られているスケールモデル」っぽいともいえるわけで……アレ、コレってガンプラとかでやっているリアル考証とか考察ってやつじゃない?しかもかなり濃い目の……。

 自分は設定をかじっているので「シュトロブラムス社は本マシンのもう一つの特徴であるローリングコックピット技術も供給しているので両方貼ってもおかしくないハズだという妄想が加速しデカール貼りが捗ってしまう。「シュトブラムス社は動力系以外にも技術供給しているので”supported by〜”なんだな。芸コマ!」と。

 デカールデザインは公式に起こされたものかもしれないけれど、劇中で描かれていないし箱絵とも違うし。サービス分はどこに貼るか?どれを貼るか貼らないかさえ自分で決めていいワケだ。「設定を軸足に自分で考える」楽しみへと進む導線の置き方がとても心地いい。


 さらに設定では水素エンジン実装に伴って可変展開するブースト加速装置「メッサーウィング」が使えるようになったのだけど、このシリーズは大掛かりな変形状態は別キットとしてリリースしてきた。キットにはそんな前例に倣い将来的にリリースされるであろうメッサーウィング展開状態用と思しき部品も既に(剰部品扱いで)収録されていて、まだ見ぬ後続ラインナップへの期待も膨らむ。

 ボックスアートに追加マーキング、余剰部品に至るまで「それが何であるか?」は明言しない。だからといって「続きはみなさんの自由な発想で楽しんでください」なんて放り投げ方でもない、あくまでも「サイバーフォーミュラの世界観」の枠組みを意識しながら想像を広げていける「匂わせ」の巧さが光るキット構成に仕上がっている。

 基本色が白一色のマシンなので、素組みにデカールを貼るだけでも満足度が高い本キット。その昔、キット本体とは似てるとは言い難いボックスアートを参考にイメージを膨らませて手を加えていく時代があった。劇中描写、劇中設定を起点に考察し架空のメカニックにリアリティを見出していく遊びがあった。最近では箱絵と中身が剥離するのは良くないという考え方、設定の深堀りは新規層への訴求が弱まるといった視点からそれらを当然のように内包したスタイルの商品はずいぶんと減ってしまった。

 このキットはそんなもうマイノリティと言ってもいいかもしれない「今では珍しいくらいのリアルロボットプラモの味わい」を見せてくれる。「箱絵と寸分違わぬものが入っている」のではなく、「原作設定画の再現に徹した」だけでもない「プラスチックのパーツに収まりきらない可能性」のパッケージングに成功しているといえるのだ。

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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