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キミも「最古の恐竜プラモデル」をかじろう! グレンコモデルの1/25 ティラノサウルス骨格

 外周部分のないランナーに、パーツから生えた番号タグ。長旅に耐えかねたパーツがランナーから脱走していました。恐竜プラモデル・バブルが相変わらず続いている春です(時候の挨拶)。様々なメーカーが競うように恐竜プラモデルを新発売・再生産する状況が続いているわけですが、「世界初の恐竜プラモデル」とされるキットもまた、日本国内で容易に入手することができちゃったりします。

 ものの本によると、1957年(1959年とも)にITCから発売された1/25スケール(アメリカンカープラモ!)のティラノサウルス骨格が「世界初の恐竜プラモデル」だそう。実際のところはよくわかりませんが、パッケージを変えながら再販を繰り返し、90年代以降はグレンコモデルによって発売されているベストセラーには違いありません。現行バージョンはプラッツが輸入販売しており、通販やらなんやらで簡単に手に入ってしまうのです。売っているのを見ちゃったからにはもう……ネ……というわけで、宅配ピザみたいな箱が我が家にやってきました。

 箱はこじんまりしていますが、「組むと長さ16インチになるよ」といったことが書かれています。ティラノサウルスの全長が15mとされていた時代の公称1/25スケール、実際には1/23くらい(筆者調べ)の大型キットなのです。

 箱を開けると派手なパーティングラインやバリが襲いかかってきます。そのままだと見映えがよくないどころか組み立てに支障をきたしますが、とはいえパーツはたったの47個。メカものと違って平面をきっちり整形する必要もないので、気楽に立ち向かいましょう。よく切れるデザインナイフで余計な部分を削いでから、流し込みタイプの接着剤を塗って細かい凹凸を溶かしてなじませてやると楽ちんです。

 パーツの接合部は遊びが大きく、五月雨式に接着していくと全身がガタガタになりがち。まず説明書をひととおり読んで製作工程(必ずしも説明書通りに作る必要はありません)をイメージし、体幹部や後ろ足ごとに仮組みしてパーツのつながり・流れを確かめながら接着していきます。通常タイプの接着剤をメインに、流し込みタイプの接着剤を補助的に使っていきましょう。

 仮組みを繰り返しながら設計者の意図していたパーツのつながりを探っていく作業は、化石をつなぎ合わせてもともとの骨格の状態を復元していく作業とよく似ています。決して楽ではありませんが、現存する唯一の恐竜のパーツである化石、すなわち「本物の恐竜」との語らいがそこにあるのです。

 長らくティラノサウルスの「顔」として君臨したのが本キットのモチーフであるAMNH 5027です。とりあえず手前味噌の骨格図と並べて悦に入ってみます。

 本キットの最初のバージョンが発売された1957年当時、ティラノサウルスの復元骨格は世界にただ2体──ニューヨークはアメリカ自然史博物館(AMNH)のAMNH 5027と、ピッツバーグはカーネギー自然史博物館のCM 9380(AMNHから移管された標本で、ティラノサウルスの命名のもとになった骨格)を組み立てたものだけでした。本キットは明らかにAMNH 5027(=1908年に発掘され、1915年に世界で初めて全身骨格が復元されたティラノサウルス)を参考にしています。というより「1927年から1991年までのAMNH 5027」を再現したプラモデルなのです。

 オーバースケールとはいえキットのプロポーションは極めて正確で、個々の骨の形状はおろか、ポージングまで往時のAMNH 5027そっくり。今日では不正確なものとなった足首から先や尻尾の後半部も、正しく「旧復元」を再現しています。これほどモチーフに忠実な(≒正確な)恐竜の骨格模型は、実際の骨格の複製品を除けばマスプロダクトはおろかガレージキットの世界でさえ他に存在しません。

 パーツがうまく合わない箇所(たくさんあります)、そのままだとダサい角度になる部分(肩甲骨や前足、恥骨や座骨)は、接合部を削り込んで復元骨格の写真を参考に接着していきます。もしディテールアップに挑む勇気があるのなら、AMNH 5027を研究した論文(① https://digitallibrary.amnh.org/items/10190e09-d3c8-4eeb-81e2-1ba8291425b4 、② https://digitallibrary.amnh.org/items/4af1909b-3dbf-4e5c-90a2-fd0f0cc5f742)がよい参考になるでしょう。なにしろ『ジュラシック・パーク』のロゴのモチーフにもなったくらいの標本ですから、ネットでいくらでも「旧復元」時代の写真が見つかります。

 説明書には両足を台座に接着してから体幹をくっつけるよう指示がありますが、足の指が台座に彫刻された接着用の溝にちゃんと収まらない、という但し書きもあります。台座に固定するのももったいない気がしたので、接着剤が七割がた乾いてきたところで机の上に立たせ、ポーズの微調整に移ります。

 実のところ、本キットは実際の復元骨格よりわずかに尻尾を上にそらせた状態になるよう造形されているようです。後ろ足を素直に組み付けると上半身が実際の復元骨格よりわずかに前傾することも相まって、尻尾が地面から完全に浮いてしまいます(パッケージの完成見本も同様の状態です)。

 もっとも、AMNH 5027は予算と技術的な問題でやむなく尻尾を接地させた三点姿勢で組み立てられた経緯があります。二本の足だけで自立するなら、それもよいでしょう。台座に彫られた接着用の溝に足や尻尾を合わせるのではなく、足どりを実際の復元骨格に極力寄せた状態で仕上げることにしました。

 ポーズが定まったら瞬間接着剤を流し込んで関節にとどめを刺し、ひと晩寝かせて接着剤の乾燥を待ちます。組み立て始めてからちょうど一日、キリのいい感じです。

 せっかくAMNH 5027のよくできたプラモデルが手に入ったわけなので、写真を見ながらそれっぽい色で塗装してみます。完成目標よりちょっと明るめの色で、ムラは気にせずざっくりと。頭骨の開口部は埋まっていますが、AMNH 5027の実際の頭骨も堆積物が詰まったままなのでこれで「正解」です。

 基本色をベタ塗りしたら、Mr.ウェザリングカラーでウォッシングして完成です。キットのディテールはあっさりしているようで、ちょっとした凹凸がとても表情豊か。暗めの色でウォッシングするとキットの味が際立つようです。

 キットのポージングは一見単調ですが、背骨のかすかなひねりやパリコレもびっくりの華麗な足どりなど見どころはたくさん。20世紀初頭のAMNHのプレパレーター(化石をクリーニングし、展示用に仕立てる人々)は見事な技で伝説となっていますが、間違いなく本キットにもその血が流れています。

 「最古の恐竜プラモデル」だけあって相当に手こずると思いきや、二日間で余裕をもって塗装まで終えることができました。決して楽なキットではありませんが、パーツ数の少なさ、そして表面処理や塗装の仕上げにメカものほど気を遣わなくていいところに助けられた格好です。アオりで撮ると手持ちの黒バックからはみだします。なんだか博物館っぽい雰囲気になったのでヨシ!

 開発に携わった人々がどこまで意図していたのかはわかりませんが、結果的に本キットは1950年代当時にティラノサウルスの復元骨格で唯一詳しい資料が出版されていたAMNH 5027をかなり忠実に再現したプラモデルとなっています。当時の技術ではどうしようもなかったであろう箇所、形状の読み取りが(恐竜の骨格を描いて暮らしている筆者からすれば)甘い箇所もありますが、正確なプロポーションとそこから導かれる優雅な佇まいは60数年後のキットをもまったく寄せ付けません。骨格の欠損部を補完したアーティファクトやポージングはモチーフからして「旧復元」ですが、逆に言えば完全に残っていた頭骨や尻尾の後半を除く体幹部は不変のものでもあります。はるかな昔に実在した一匹のティラノサウルス(の化石標本を組み立てたもの)をプラモデル化した本キットは、世界初にしていまだ唯一の「本物の恐竜」のプラモデルなのです。

 「最古の恐竜プラモデル」にして、入手から組み立てまでそれほど気負わず楽しめる50年代プラモでもある本キットは、手探りの骨格復元の一端を味わえるものでもあります。最新キットと最古のキットがどちらも気軽に入手できる恐竜プラモ界、ちょっとかじってみませんか?

G.Masukawa a.k.a.らえらぷすのプロフィール

G.Masukawa a.k.a.らえらぷす

1994年生まれ。恐竜の化石から骨格図を描き起こしてごはんを食べています。著書に「ディノペディア Dinopedia: 恐竜好きのためのイラスト大百科」、「新・恐竜骨格図集」、イラスト展示制作に「恐竜博2023」、「ポケモン化石博物館」ほか多数。

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