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マンガとリアルの境界線!/サンドランドのプラモデルが1/35スケールを謳う理由。

 サンドランドの戦車のプラモの縮尺表記は1/35。戦車プラモにおける最もポピュラーな縮尺で、その数字を謳うだけで”ムード”が作れると言っても過言ではない。ただこの戦車には「全長全幅全高何メートル、重量何トン」といった寸法設定は存在せず、人物だってデフォルメが効いているし、「どこが何センチだから1/35なのだ」というわけではない。

 フィギュアの背丈を既存の1/35戦車プラモのフィギュアと並べられるサイズ感にすることをもって1/35スケールとする「イメージスケール」というやつだ。要は本格戦車モデルの「テイスト」を匂わせるにあたっての1/35スケール表記の採用であって、手すりやハンドルも同じ縮尺の人間が握るべき太さで繊細であるとか35倍にした時に本物であるといった実感を持つ類の表現ではない。

 それでも鳥山明のイラストが「ポップにデフォルメされていてもリアリティを感じる」ように、このプラモはその表面的なルックス以上に「リアルな戦車模型」たらんとするギミックに溢れている。例えば説明書は要所要所で「組み立て」以外の「こうするといいぞ」を提案してくる有能なガイドになっている。に組み立てとは別に紹介されるワンポイントアドバイスも「ポールをしならせて加速時の疾走感を表現してみよう!」といった極めて演出的なアプローチの紹介をしつつ……。

 「戦車模型らしさ」を醸すためだけ(しかも決してソレが必須要素といえる訳ではない)に、わざわざオプションとして「金属線を使った旗竿」も用意。「まっすぐな丸棒はランナーに成形された細い丸棒なんかより、”本物”を使って質感も強度も全部アップグレードしようぜ!」というディティールアップのいろはを披露してくれる。

 しかも、ただ旗ポールが「金属になってウレシイ」で終わらせることなく、旗そのものを巻き閉じるようにして作るシールも用意されていて、これ以上ないくらいに「1/35の旗の薄さ」を表現してくれる。


 こうすることでプラ肉厚にシールを貼って表現された旗にはない「布でできた旗が1/35の厚みになった」写実的なリアリティも見せてくれる。ひとつのキットの中で、ひとつの戦車を作る中で、模型が取れるアプローチの豊かさを示してくれる。


 タミヤの1/35MMシリーズはもちろん、DBメカコレクションにも並べて違和感のないサイズのメカがある。元になるデザインやイラストが上手すぎるのでBANDAI SPIRITSくらいの技術のある大手メーカーなら普通に取り組めば100点以上が約束されると言われても納得してしまう鳥山明のメカニック。そこに同社が最近はリアルロボットアイテムでもあえて伏せることすら選択してきたスケール表記を「必要な要素」として採用し、なおかつそれ自体を「雰囲気づくりのアリバイ」として済ますことなく、パーツ構成から説明書に至るまで真摯に「サンドランドの戦車の(そして実在する戦車に通じる)プラモデル」として取り組んだ意欲作に仕上がっている。


 スケールモデルが取り組んできた「本物を限界まで正確に表現するリアリティ」とも、ガンプラが取り組んできた「設定解釈から劇中以上に立体に施すべき情報を引き出すリアリティ」とも違う。「稀代の漫画家によって描かれたデフォルメをそのままに立体化することで浮き立つリアリティ」がここにある。絵が巧いということはどういうことなのか?プラモデルが巧いというのはどういうことなのか?もし、このプラモデルを鳥山先生本人が作ったらどんな風に仕上げていただろう……

と考えずにはいられない。

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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