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これは「コスチュームの模型」だ!/究極の着せ替えプラモデル、30MS アイドルマスター シャイニーカラーズ 櫻木真乃の話。

 ただパーツを組んだだけでこの圧倒的な色分けと重層的な造形の再現。チェック柄のスカートは印刷済みのPVC製シートにフリル状の癖をつけたものが同梱されており、胸元のリボンはハートの部分と一部の白いラインをPET製のシールとして立体感と光沢のあるテクスチャを両立するなど、複数のマテリアルを組み合わせることでリッチな見た目を堪能できる。

 いまやキャラクターモデルではほとんど当たり前になりつつある「最初からプラモデルにすることを前提として起こされたデザイン」ではなく、(プラモデルになることなど微塵も考えていなかったであろう)ゲームに登場するアイドルらしいきらびやかな衣装を、硬質なプラスチックの組み合わせで表現するために腐心した痕跡が組みながらに感じられる。こんなに楽しい旅なら、何度でも繰り返し味わいたい、と思わせるほどだ。

 『アイドルマスター シャイニーカラーズ』に登場する26人のアイドルをすべてプラモデルにすると宣言したバンダイスピリッツ。すでに同社製の女の子プラモとして地位を確立している30 MINUTES SISTERSシリーズ(以下「30MSシリーズ」)のフォーマットを踏襲しつつ、完全新規に作られた第一弾アイテムの櫻木真乃は、すばらしい造形と巧みな可動ギミックが目に楽しい。衣装を再現するパーツのタグには「ビヨンドザブルースカイ1」という衣装の名前(!)が刻印されており、これが特定のアイドルのためのものではなく、同じ衣装を身にまとうすべてのアイドルに共通して同梱されることが示唆されている。

 ではこのプラモデルが櫻木真乃の立体物であるということを決定づけているのは何なのかといえば、髪と顔が彫刻されたパーツだけ。それ以外は新規に設計された「他のアイドルと共用可能な衣装および腕や脚」、そしてこれまでの30MSシリーズで使われてきた関節の類を流用し、組み合わせたものだ。

 昨今のCGを駆使したゲームや映画と同じように「アセット(素材として用意されたデータ)」が蓄積されていて、そこからユーザー自らが推しのアイドルを構成する要素を呼び出す(=選び、組み立てる)という構造がプラモデルになっているわけで、それを裏付けるように「衣装(+ボディ)だけ」「他のキャラクターの髪と顔だけ」という商品も用意されている。そういう意味で、櫻木真乃はメーカー出荷時にアセットの組み合わせをあらかじめ決めた上で提供される「プリセット」に例えられるだろう。

 フェイスパーツと口腔の内側からはめ込まれる薄オレンジのパーツは印刷済みとなっており、組み立てれば当然のように可愛い。ひとつだけ手に入れて一気に組み立て、完成した意匠だけを追いかけていくと「よくできた櫻木真乃のプラモデル」なのだが、解体してみれば「30MSシリーズで熟成されてきた可動機構が組み込まれ、徹底的に色分けと形状再現を追求した衣装のパーツ」と「差分データとしての頭部」がセットになった商品だ。すなわちこのシリーズ自体が、”同じデザインの衣装に身を包んだたくさんの女の子たちが一糸乱れぬダンスを披露しながら歌い上げる21世紀型のアイドル像”をプラモデルのカタチにパッケージングしたメディアなのである。

 
 完成した姿はとても可憐で、ラメが入ったクリアーブラックのパーツも相まってとても軽やか。必要なセットを買ってくればバストのボリュームや脚の長さを変化させることでアイドルの体格差を表現できるよう配慮された設計や、この衣装では完全に隠れてしまう腰の肌色パーツにも肉体美を感じさせる彫刻が入っているところを見ると、これから続々と発売されるであろうアイドルはもちろん、異なる衣装の登場が待ち遠しくなる(当然その時にはすでに手元にある櫻木真乃の頭部を移植することで彼女の違う姿も堪能できるだろう)。

 プラモデルの楽しみにおいて、「何が立体化されるか」というワクワク感はひとつの大きな要素だが、すでにシリーズを通してシャニマスのアイドル全員がキット化されることはすでに確約されている。であるならば、キットに占めるボリューム的にも、今後の展開の注目度においても、「コスチューム」こそが本体であるというのが、このプラモデルの極めて新しいアイディアだと言えるだろう。どの衣装を誰に着せるか決めることで、文字どおりあなたがプロデューサーになるのだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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