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真剣に、命がけで遊べ/太陽の塔のプラモが教えてくれた岡本太郎のスゴさ。

 人工衛星のようだ、と思った。金のパラボラとアンテナ。ブルーのディスクはさながらソーラーパネル。『太陽の塔』がショートケーキならば、この部分は最後に食べるイチゴのようなパートだ。その威容の頂部にあって万博の喧騒を見届け、いまは記念公園の近くを通る人達を睥睨する黄金の顔。

 太陽の塔には全部で4つの顔があった。金色に輝き未来を象徴する「黄金の顔」、現在を象徴する正面の「太陽の顔」、過去を象徴する背面の「黒い太陽」、そして万博当時に存在した”幻の顔”である。地下空間にディスプレイされた「地底の太陽」は黄金色で顔の直径は3メートル、左右に伸びるコロナは最大で13メートルという巨大な物体だったが、万博終了後に所在不明に。2018年の再公開に向けて海洋堂が当時の資料をもとにひな形を作り、現在はそれをもとに復元されたものが展示されている。

 その表面に自分でなにか痕跡を残したい、と思う模型だった。プラスチックモデルで堪能できるのは「地底の太陽」を除く3つの顔。模様の再現にはデカールも用意されているが、パーツの表面の彫刻にしたがってアクリル塗料を筆塗りしたいという気持ちがむくむくと湧き上がってきた。両脇がほんの少しめくれ上がった凹みに赤い塗料を走らせると、波打つ模様が傷口のようにも見えてくる。ただ瓶からすくっただけのプラモ用塗料に、内側から吹き出す血や溶岩のエネルギーを感じたのは初めてだった。

 完成後も前後の外装を分離して内部を見られるようになっているから、正面と背面の顔を同時に眺められるのも模型ならではの楽しみ方だ。立体的な「太陽の顔」と、タイルの陰影と緑のコロナが不気味な「黒い太陽」はわかりやすく対照的。コンクリートの微妙な凹凸も意図的に彫刻されていて、白いプラスチックのままでも案外豊かな質感があるのに驚かされる。

 万博と塔の間には、密接な関係がある。パリ万博で建てられたエッフェル塔と、大阪万博で建てられた太陽の塔。どちらも造形的な美があり、万博のテーマを象徴するメッセージがあり、そして何よりも建造物として(あるいは上昇する装置として)当時の技術の粋を凝らしたものだった。

 完成してみれば、誰もが知っている太陽の塔がそこにある。しかし、プラスチックモデルを作る過程で太陽の塔が内包する意味をさまざまな角度から感じ、読んで知り、ああホンモノを改めて眺めたいなと思わされた。そしてなにより、岡本太郎という世紀の芸術家が遺した巨大なオブジェの忠実な模型が家にあるということがひたすらに面白い。全高360mmに縮んだとて、その存在感は決して小さくなっていないことに、改めて驚かされるのだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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