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躍動する小さく多様な生命/「太陽の塔」のプラモデルは海洋堂の動物セットなのか!?


 太陽の塔の内部には高さ約41メートルの「生命の樹」がおっ建てられており、そこにはアメーバからクロマニヨン人に至るまで、292体の生物模型がくっついている。これは大阪万博の「人類の進歩と調和」というスローガンに対して「進歩と調和が人類だけのものだなんて傲慢なこと言ってんじゃねーぞ!」という岡本太郎の主張がカタチになったものであり、つまり我々も海洋堂のプラモデルを組むことで岡本太郎の熱き創作を追体験できるというわけだ。ヤバいプラモだな……(このへんの詳しい解説も説明書に記載があり、めちゃくちゃ面白いので必読である)。

 流石に292体はいないっぽいが、めちゃくちゃな量の動物(指先サイズ)をしこたま接着する指示が説明書には描き込まれている。動物の名前も描いてあるのだが、半分くらいは知らん。キミは誰なんだ……と問いかけながらピンセットで貼る。人間中心主義が崩壊し、生命の大いなる歴史を指先でビシバシと感じることになる。

 プラモデルはランナーと呼ばれるパーツの付いたワク自体が商品であるからして、芸術的なレイアウトはそれだけで作る人の心を打つ。このプラモデルではあえて生命の樹を構成するパーツをランナー1枚に収まるように配置することによってその全体がすべて視界に収まるよう設計されている。開発担当氏曰く、「これから何が起きるのかがなんとなくわかるのが楽しく、それでいて組み始めると『なんだこれは!』と驚くワンダーがあるのがさらに楽しいのだ」ということで、私もまったく同意見である。パッと見で何をさせられるのか分からず、組んでいる間も何をしているのかよくわからないプラモデルは組んでいても作業になりがちだ。

 前言撤回スレスレのビーンボールが初手から飛んでくる。生命の樹が建つ土台にはじつに30パーツほどの原生生物を植え込む必要がある。小さな穴に不気味なウミユリのようなものをブシブシと差し込み、接着剤で留めていく工程はまるで暗い海の底にいるような気分になるが、しかしその先には輝かしい進化の歴史が待っている。息子が寝ている隙に黙ってクリアしよう。

 生命の樹の幹からは枝が伸び、そこには大小様々な生物がしがみついている。ぶら下がっているものもあれば、上に乗っかっているものもあり、2〜3パーツに分割されている生き物があれば、ワンパーツで見事に特徴を捉えて立体化されている生き物もいる。海洋堂は動物園のプラスチックモデルをさかんに発売しているが、このプラモデルは「ひとつの箱に入っている生き物の種類」のギネス記録に登録可能だろう。

 幹に設けられた凹みと枝の付け根は巧みに形状が一致するよう設計されていて、一見不安定な印象でもカッチリと角度が決まる。得体のしれない動物がワサワサと群生する根っこのほうから、徐々に具体性を帯びる梢のほうへ。ゴリラがいて、ネアンデルタール人がいて、いちばん上にはクロマニヨン人がいて、それを眺めるのが我々人類である。こんなにストーリーのあるひとかたまりの立体はそうそうない。このプラモデルすごいな、の前に、岡本太郎がすごすぎる。

 組んだ生命の樹はおよそ20cmほどの長さになり、きわめて繊細。古賀学氏によってデザインされた説明書には超詳細な塗装指示が描き込まれているので完成見本のように仕上げたければ大量の塗料を買ってきて調色して面相筆でシコシコ塗ると望みのものが得られるだろう。それはあくまでも「太陽の塔の実物を模す」という行為であるからして、岡本太郎のことばをここで反芻しよう。でたらめをやってごらん。自分の歌を歌えばいいんだよ。

 べらぼうな夢はあるか。生命の樹をゴールドに塗り、私は私のストーリーを手に入れた。説明書を読めば塔の内部の色や構造にもめちゃくちゃ意味があることがわかるのだが、しかしその造形自体もまたすばらしい。白い内壁の凹凸と金色の生命の樹がコントラストを生み、なんだかとても清潔で高貴な空間がそこにある。GINZA SIXの大きな吹き抜けをエスカレーターで上昇しているときのような……。そう、このプラモデルにはまだ、「鑑賞者が上昇する装置」としての側面が残されている。その話はまた次回。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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