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メカトロチューブかく語りき/プラモデルの設計哲学を読む!

▲ウィーゴより「後から発売されたお兄ちゃん」鉄腕アトムに対するコバルト兄さんのようでちょっと違う。

 メカトロウィーゴといえば今やハセガワの看板娘ならぬ看板ロボプラモになってしまった感もあるのだけれど、実はこのウィーゴには「お兄さん」がいる。ハセガワ製のプラモデルとして登場したのは後からだけど、原作者である小林アニキが自作のレジン製組み立てキットとしてウィーゴより先に発表していたのがこの「メカトロチューブ」だ。

 プラモデルとしての基本構成は同社のメカトロウィーゴに倣い「スナップフィット仕様のロボットに要接着仕様の搭乗者フィギュアをセット」したもの。ひと箱の中にツートン配色の色違いがまるまる2セット入っている点も同じ。同じフォーマットのデザインの違うロボットの種類が増えて良かったね!めでたしめでたし……ではすまないのがこの「ウィーゴに対するチューブ」の面白いところ。

 並べてみるとわかるのだけれど、メカトロチューブはメカ味が濃いのだ。全身に配された手すりやカウルからの露出が多いむき出しの関節等、チョクに「メカ」を演出するパーツが目立つ。レトロフューチャーな設定と相まって、ウィーゴとは趣を異にする油にまみれた機械の武骨な味わいのロボットに仕上がっている。

 スネの上下端に配されたロールバーの部品。「え、コレ……お好みで接着しても良いオマケ部品じゃなくてデフォルトで組み立てに含まれる部品なの!?」と、指先で摘まむのも難しいほどに細かい部品が当然のように存在する。そしてこの部品は左右で挟み込む構成なのだけど、片方だけでは仮組みも利かない程度の渋みなのでポロッと落ちる。こういうプラモデルを組むのに慣れていないとそこそこ苦労する。しかもスネ上下端ふたつのロールバーを同時に挟み込まなくてはならない。スナップフィットでありながら器用さを試してくるんだな。

 運転席周りはまた精密な部品のオンパレード。レバーにしてもサドルにしても突き出したウィンカーやバックミラーにしても同社のスケールモデルと同じくらいの繊細さで作られている。

 そんなこのキットの「繊細な極小部品のスナップフィット化」に対する処理で面白いのは「脱落の防止」に対する気遣いだったりする。脚の組み立てで触れた左右挟み込みのロールバーはまさにその代表で、組みあがってしまえば動かして遊んでもポロポロ外れるようなことはない。もしこれが左右分割の部品を閉じた後にさして渋みの期待できない小さな勘合で差し込んでいたらこうはならなかっただろう。

 股間のナンバープレートもサドルも背もたれも同じように「不用意に脱落してしまわないように」設計されている。「脱落しないコト」とのトレードオフで少々組み立てが難しくなるのに気づかないなんてことはないハズで、その辺のバランスにはかなり自覚的に設計しているんじゃないかと思う。こういうのを”設計哲学”って言うんだろう。

 じゃあその哲学のもとになんでもかんでも「挟み込みで脱落防止」で片づけているかというと、そんなことはなくて、肩やモモの手すりは「必要十分な勘合がとれる」という判断で素直に差し込む方式。ここは角穴に丸軸を差し込む事で必要最低限の保持力が発揮されるよう調整してあって、差し込む時の力で部品がつぶれてしまうのを防いでいる。手段は違っても繊細な部品をどうスナップフィットに落とし込むかという哲学自体は一貫しているんだよ、ここの処理も。

 そしてフィギュアはあくまでも接着して組み立てるというメカトロウィーゴ由来のフォーマット。結局ここで接着剤を使うのだからロボット側の細かいディティールなんかも接着させてもいいと思うのだけれど「ロボット部分は接着剤不要で組みあがる」のをメカトロシリーズとして固持すべきフォーマットであると考えているのだろう……これも哲学だな。


 接着剤不要!スナップフィット!と言ったら「要はガンプラに寄せたんでしょう?」と言いたくなるくらいにスナップフィットという概念はガンプラが浸透させたものなのだけれど、それを採用したプラモデルがひたすら「ガンプラ的」になるかというとそんなことはない。接着剤不要や成形色で色分けを再現する仕様が被っていてもメーカーによって目指すところが変わってくる。繊細さも、組み味も全部違う。メカトロチューブかく語りき。

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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