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彫刻の「量感」を楽しむプラモデル/minimum factoryイングラム & クラブマンハイレッグ

 minimum factoryシリーズのパトレイバー(イングラム & クラブマンハイレッグ セット)を組んでみたのだけれど、自分の知っている中から似ている組み味のプラモを探すとタミヤ1/35MMフィギュアがそれに近い。「Theプラ彫刻!」といった趣。そもそもこのシリーズはフィギュアを皮切りに発展してきた存在なのだから当然といえば当然なのだけど、ロボットがモチーフだからという理由で普段ガンプラを嗜んでいる視点から手にしてしまったならきっと強烈なパンチを受け取れるハズだ。

▲指紋と比べて大きさを把握して…1円玉じゃ大きすぎるから…

 いきなり4パーツが組み合わさるイングラムの頭は指先程にしかならない大きさ。塩ビやレジンキャストなら無垢の1パーツ作れるサイズだとしてもプラモだと分割せざるを得ない。でもプラモなら薄いところまで歪みなく造形を保つことができる利点がある。「細かいww」と草を生やしながらギリギリピンセット無しで組める塩梅も絶妙だと思う。

 雑誌やメーカーの商品紹介を眺めていてこの胴体部品とか、造形がいいのはわかるけど、複雑な分割からなる設計の妙と言われても「だって前後に閉じるだけなんだぜ?なんだか安っぽくない?」みたいな気分があったけれど杞憂だった。襟元のアンテナが一体成型なところとかランナーに並んでる時点で面白いし精密感もある。原型師とか設計師の他に「分割師」とかいるんじゃないかと思ってしまう。

 ロボットのコブシは造形をうるさく言われる部分。ここまで小さいと握る警棒と一体にしてプラ肉厚内でも無垢で作れてしまう。この右手は金型の抜き方向の制約から前腕の肉抜きをふさぐようにしたフタ部品と親指だけ一体になっているのも芸コマ。

 組んでいて気持ちよかったのが肩側面の穴あき装甲。貫通しているが故のクッキリ感に加えてこの穴から覗く位置にある関節を覆うキャンバスの彫刻までされていて、奥行きのある立体に組みあがる。「彫りが深いレリーフ」ではなく「貫通した穴とその向こう側の景色を表現として活かした」彫刻なのだ。彫刻作品というのはそれ自体が三次元上で辻褄を合わせた、二次元のウソから解放された(解決/折り合いをつけた)表現であるから、その「解放」される箇所に関して持てるアドバンテージを如何に尖らせられるか、というのが快楽原則になる。

 このキットのもう一つの主役であるクラブマンは4脚デザインなこともあって分割が大変なことになっている。仮に脚が一本ごとに左右分割で4本あったらいくつの部品が必要になるの?こういうのを計算するのは何算ていうの?鼠算?鶴亀算?ガタマン算?クラブマン算?

 部品を組み上げてロボットを完成させるというよりも、分解された彫刻を復元する感覚というのが近い。可動するロボットプラモのような「ロボットの機械的な仕組み」を追うのではなく、彫刻作品の持つ「空間を押しのける量感」を追うスタイル。彫刻を作るうえでの「量感を追う」って作業は特にアナログ作業だと粘土を盛りつけていったり木や石の塊を削るとかそんな文字通り質量と向かい合うことになるのだけれど、これはプラスチックの皮一枚で実際には質量の抜けた「量感だけが再現されたイミテーション」なのだ。

▲クラブマンの足回りは煙に巻かれるうちに立体が立ち上がる。イリュージョン!

 割られたパーツを閉じることで「薄皮一枚のイミテーション」は「量感をもったマス(塊)」となり最後には「空間を押しのけて存在する彫刻」になる。

 「彫刻」っていうとなんだか高尚な芸術の話をしているみたいでむず痒いかもしれないけれど、有名なダビデ像だって平たく言えば「聖書のエピソードを再現した立体物」だし、だったら「少年サンデーコミックスのエピソードを再現した立体物」であるコレだって「彫刻作品」であることに間違いない。
 少年サンデーコミックス、ファンにとっては立派な聖書だしね!

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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