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最高に楽しい!『ワークスの鷹』で知る、日本のカスタムカープラモデルの世界。

 模型店で少なくない面積を占めているのに、見向きもしていなかったことに気づいた。アオシマが展開するカスタムカーの世界。クルマをを目立つようにドレスアップしたり公道でスピード競争に明け暮れたり、どっちも現実世界ではイリーガルな遊びだが、プラモデルの世界では誰にも怒られない。そもそもどんなプラモデルなのかぜんぜん知らない。ひさびさの再販となった『ワークスの鷹』シリーズから青とオレンジのコントラストが眩しいワークスグランデマークIIを買った。

 箱を開けた瞬間にかなり大きい声を出してしまった。ベタッとした水色のボディに、オレンジ色のチンスポとオーバーフェンダー。小径のホイールは深リムでスリックタイヤが付いている。アメリカにおけるカスタムカーとは違う文脈で根付き花開いた日本のストリートカルチャーを体現する「クールな見た目とスピードへの狂おしい渇望」がプラモデルになっている。

 そもそもワークスの鷹とは何か。説明書には暴走族とストリートレーサーの違いを熱弁するアツいテキストがしたためられている。言ってしまえば「これはただうるさくて迷惑な暴走族のクルマと一緒にしたらダメなんすよ!」ということなんだけど、いまでは”街道レーサー”と呼ばれるカルチャーをプラモデルというカタチにしたことで、我々はリーガルかつ無責任に楽しめるという寸法である。

 ビビッドなボディと改造パーツを除けば、ハコに入っているのはノーマルの「マークII グランデ」である。ベースはいまから40年ほど前の設計なので少々古く感じられるところもあるが、最新の工具と接着剤があれば難なく組める。電池ボックスやモーターのマウントが入っていることからこれが電動モデルだったことが偲ばれるが、いまも販売されているアオシマのベテランキットをいろいろ調べると、メジャーなマシンでもこの名残を今に伝えるものがたくさんあるということを知った。

 反対に言えば、スプリング式のサスペンションの上にモーターをマウントしてリアのアクスルに直接動力を伝えるダイレクトドライブの仕組み、シムを噛ませてホイールのオフセットを調整する設計などはかなりシビアで、おそらく多くの少年がただ組むのにも苦戦しただろうことが想像できる。よしんばこれをきちんと走るように組み立てられたとしても、充分にギアダウンできない機構ゆえにとんでもないスピードが出るし、ステアリングも固定となればスイッチONが大事故の合図だったに違いない。

 時は流れ、オトナらしくゆったりと楽しむディスプレイモデルになっても遊び心は満載。ダッシュボードの下に目見当でゴテゴテとオーディオシステムを取り付けていく工程はとても楽しく、ボディを被せてしまうのがもったいないほど。外見は改造車であっても、もとのキットはインテリアの表現を犠牲にせずプレイバリューを追求していたことが伝わってくる。

 日本には日本のクルマを丁寧に立体化して幅広い層に送り届けようとするメーカーが数多あり、JDMシーンに火を点けた『ワイルド・スピード』がこの世に生まれるずっと前から、日本車のカスタムに熱狂するカルチャーとそのプラモデルがあった。かつての走り屋、あるいは走り屋に憧れた少年の多くが手こずりながらも挑戦したアオシマのカスタムカープラモは、パッケージから受ける印象とは裏腹にとても重層的で奥深い文脈を湛えているのだった。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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