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タミヤの夢、ゴードン・マレーの夢/GMA T.50には「車とプラモデルの目指した未来」がある。

 タミヤがなぜT.50というクルマをプラモデルにしたのか。その理由が上の写真の換気扇みたいなパーツにあります。ゴードン・マレーという天才自動車デザイナーをあなたが知らなかったとしても、アイルトン・セナが乗っていためちゃくちゃ強いマシンは見たことがあるはず。マクラーレンMP4/4やマクラーレンF1、SLRマクラーレンといったわかりやすいクルマを手掛けた彼のキャリアのなかでも語り草になっているのが「換気扇付きのレースカー」です。

 タイヤの力を地面に効率よく伝えたい。1970年代、クルマに翼を取り付けて飛行機とは反対に下向きに押し付ける力を働かせるとか、ボディの一部を巨大な翼にしてしまうといった工夫がF1の世界で試され、目覚ましい効果を上げるなか、ゴードン・マレーは全く違う「ファン・カー」のアイディアを取り入れます。かつてシャパラル2Jというレースカーで試された「地面とクルマの間にある空気を巨大なファンで吸い出して地面に貼り付く」というギミックをブラバム BT46Bというマシンに装備。みごとな強さで初戦優勝を飾るのですが、普通にルール違反なんじゃないかという他チームの圧力によって二度とサーキットで戦うことはありませんでした。

 ゴードン・マレーとタミヤの関係は切っても切れないもの。ブラバムやマクラーレンのF1マシンを数多く立体化してきたタミヤが、40年越しに「ファン・カー」を市販車として世に問うたのをプラモデルというカタチで我々が触れられるようにしたのはある種の必然と言えるでしょう。ボディ後端のど真ん中にある丸いファンは、まさにBT46Bが夢見た「最強のギミック」の再臨です。

 100台しかない実車を買わない限り拝めない車体下面の構造もまるっと見えるのがプラモデルのすばらしいところ。このアンダーパネルにエンジンやギアボックス、サスペンションが絡み合うように配置される過程もなにひとつ面倒なことなしにスルスルと組みながら味わえます。

 下面のスリットから吸い込まれた空気がウネウネと曲がる薄いダクトを通って車体後部中央へと導かれるさまもばっちり再現。ファンがどれだけの仕事をするのかはさすがにわかりませんが、「可変式のスポイラーと協調することでダウンフォースが50%も増加するのだ」というゴードンの主張を「な、なるほどそうなんですね……」と飲み込まざるを得ない内部機構がアツい。

 いや、そもそもプラモデルなんて、常人には理解できないようなメカの秘密を納得するためにあるようなもんです。プラモを組むから、俺たちはメカのことを知ったような気になれる。そのちょっとの知識が、新たな扉を開いてくれる。だからまたプラモデルを組むんだね。

 ロードゴーイングカーですが、ほとんど昔のF1プラモを組んでいるような感覚で「人間が乗るところの後ろに駆動系のカタマリが直接くっつく」という構造がダイレクトに味わえます。どこにも隙間なんかできないし、鼻歌まじりで組んでいても歪んだり曲がったりすることもない。カーデザイナーの異常なこだわりと、タミヤの異常なクオリティが空中でがっぷり四つ。千秋楽の結びの一番、横綱と横綱のぶつかり合い。

 エンジンだって黒とシルバーのパーツの組み合わせでものすごい実在感。シリンダーヘッドカバーをオレンジで塗ればもう実物そっくり……なんだけど完成したらマジで見えなくなります。でっかいエンジンとF1マシンのような翼断面形のロワアームは、実車のオーナーだってこんなふうに眺められないのですから、プラモデルを作った人のほうがもしかしたら詳しいかもしれない。3億円払っても体感できないオーナー超えの興奮というのが、ここにあるんです。

 完成してみればちょっと奇抜な外観の乗用車。しかし中身は奇天烈なギミックが詰まった3シーターのモンスターです。ゴードン・マレーという天才が自分の描く夢を追い求めてたどり着いた最強のスーパースポーツ。そしてカーモデルの作りやすさを極めるべく技術とアイディアを磨いてきたタミヤ。お互いが絡み合いながら紡いできた歴史のいちばん先にT.50があります。みなさんも組んで、ふたつの頂点を踏みしめてください。きっとこれまでの両者の仕事にも興味が湧いてくるはずです。そんじゃまた。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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