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ヴァンピレラのプラモデルで味わう、「肌色」のふしぎ。

▲肌色、塗っていないのである。

 『ヒトの目、驚異の進化』という本がめちゃめちゃおもしろい。人間の視覚について4つの大胆な仮説が書かれているのだが、その第一章は「なぜ人間は肌の色をこんなに詳細に識別できるのか」という内容で、例え話をすっ飛ばして読めば、たいへんなスピードでものすごい知的興奮を味わえるのでオススメしたい。

 りんごは赤、空は青、葉っぱは緑……と自然界で見られるスペクトルに名前をつけてきた人類でありながら、「肌の色」という毎日見る超大事な(しかし地味で、どんなものにも似ていない)色について、そのものズバリを表す言葉を持っていない。

 なんなら人の顔の微妙な色調の変化を「赤/青/緑/紫……」と識別すらするけど、それは体表の小さな変化からも相手の感情や体調を察知できるよう進化してきた(あるいは識別できない個体は淘汰されてきた)からではないか、という論旨である。

 パッケージを開けたとき、「こりゃなんとも汚い色だな」と思った。エクスプラスのヴァンピレラはかつて我々が「肌色」と呼び習わしていた色よりも少しだけ濁り、くすんだようなプラスチックの色でできている。そのときの色のイメージをなんとなく表現したのが上の写真だ。しかしそれはめちゃめちゃ間違っていた。この肌色は総合的に言って、正しかった。

 試しに同じプラスチックの色を自分の拳の上に乗せて写真を撮り、モニター上に拳をあてがいながら同じ色に見えるよう画像を補正していくと、パーツ自体はかなり自分の肌色に近いことに気がつく。くすんでいるように見えたのはたとえば、パッケージの中に置かれた状況とかプラスチック特有のツヤ、部屋の照明によるものだったのかもしれない。

 肌の色というのはとても微妙だ。じつは人種によって色が違うと人間は認識していても、反射スペクトル(どの光をどの程度反射するかという分布)はほとんど同じらしい。だけど人間はその小さな違いを増幅して認識し、仲間とそうでない個体、具合が悪い人、怒っている人、恥ずかしがっている人を見分けて適切な行動を取ることで生きのびてきた……と言われると、なるほどたしかにそうなのかもしれない、と思わされるプラモデルだ。

 ヴァンピレラの赤い衣装を塗装し、頬紅やアイシャドウ、リップを塗った以外はプラスチックの肌のまま完成させた。最後にMr.カラーのスムースパールコートを吹くと、表面の反射率が変化して、さらに微細なキラキラとした粒子の効果によってやたらと生々しい肌になる。不思議な効果だが、しかし肌色のプラモデルにこの表面処理が効果てきめんであることは間違いない。

 肌色の絵の具を塗るその前に。肌の色とはなんだったのかをじっくりと観察する。プラモデルによって引き起こされた、不思議な体験だった。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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