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「傑作プラモ」は組んで初めて実証される/祝再販、ハセガワのF-111A

 傑作映画、傑作ゲーム、傑作小説。「これは傑作ですよ!」と言われると逆にとっつきにくい現象、あるよね。「もし自分が傑作だと思えなかったら世間とズレてるってこと?」とか「オレが体感しなくても傑作なのが確定してるんでしょ!?」と思うのは天邪鬼だろうか。

 プラモデルでも「傑作」と言われるものがいくつもあるけど、そういうのも組んでみなけりゃ自分の体験にはならない!ということでついに巡り会えたハセガワ 1/72 F-111だ。アメリカで主翼が前後に動く飛行機といえば『トップガン』でおなじみF-14トムキャットと、コイツ。

 ハセガワが『超時空要塞マクロス』のVF-1をプラモデルにしたのが2000年。その後ハセガワバルキリーを特集した『月刊モデルグラフィックス2001年4月号』にて「ハセガワバルキリーで初めて飛行機のカタチしたプラモデルを組む人って、飛行機模型がどういうものか知らないでしょ」「ハセガワバルキリーは飛行機模型としてちゃんとリアリティがあるのかっていうと、実は微妙じゃない?」「例えばハセガワにはF-111という超傑作があるけど知ってる?」という話が出てきたのが強烈に記憶に残っている。

 しかし待てど暮らせどハセガワのF-111A(アメリカ空軍がベトナム戦争に投入した元祖&本家のスタンダードな仕様)は店頭で見かけなかったんだよね。んで、いまから4年前、2019年にオーストラリア空軍仕様の「F-111G Aardvark ‘R.A.A.F.’」が再発されたときにすぐ手に入れた。手に入れたけど、組まなかった。「キットが傑作なんだから、オレがちゃんと作れないと傑作が駄作になってしまう!」という恐怖。たかがプラモデル、たかが趣味なのにね。

 んでもって、先日ようやく真打ちであるところの「F-111A アードバーク “ベトナム戦争”」が発売されて、こちらも手に入れた。調べるとA型とG型は主翼の長さや機体各所のちょっとしたディテールが違う。オレの傑作はA型にしよう。そのかわり、ハセガワの傑作として4年前から棚で寝ていた(そして今回のA型再発でオレの中での”本命”から”リリーフ”に変化した)G型を組んじゃおう。刺し身で食べてどんな魚か分かれば、煮るのも焼くのも前向きになれそうじゃないか。

 機体全面に入れられたとても繊細なパネルライン(もちろん凹んだ線で表現されている)に、大柄な胴体。そして独特な分割で怪鳥の姿をうまく捉えている。パーツ同士の合いがあまり良くない、なんて評価をネットで見たこともあったけど、どこにどうパーツが収まるかをしっかり確認しながらイマドキの接着剤を使って組めば、かなりビシッと組める。

 このキットの初版が発売されたのは1989年。ちょうどその前の年に、いまだ模型店に定番アイテムとして並んでいるF-14A(新版)が発売されたけど、「細かく分割して機体をリアルに再現しようぜ!」という気合の入った内容なのでかなり歯ごたえのあるプラモデルだ。このF-111もそういう時代性を背負っているから、たとえば着陸脚周りの精緻な構造なんかは「そこまでやるの!?」とちょっと驚くようなパーツ数を費やしている。

 確かにこれはただカタチを再現しているだけじゃなくて、いまにも動きそうな機械の雰囲気がある。言ってみれば、解像度が高い。組んだら「なんとなくこんな飛行機ですよね」から「オレはF-111のすべてを知っているぞ」と言いたくなるような。

 このキットのすごいところは「前後に動く主翼」というこの機体最大の特徴をあえて殺し、主翼が前進してスラットやフラップが下がった状態で固定するように設計されているところだ。じつは胴体の中には「後退した状態で主翼を接着するホゾ」が用意されているし、実機では主翼の前後動と干渉するのを避けるために動く部分もすべて別パーツ化されている。

 こういうところを観察すると、もしかしたら当初は「前進/後退を選択して組める」という設計だったのかもしれない。そうなると主翼パーツにそれなりの加工が必要になるし、武器を吊るすためのパイロンをどの角度で取り付けるかという指示もかなり難度が上がるから、あえて前進状態で固定したのかもしれないな……と勝手な想像をしてしまう。

 説明書をつらつら見ているだけでは「けっこう大変そうだな」と思っていた組み立ても、案外半日でなんとかなった。図体が大きいので胴体内の燃料タンクだけで任務を遂行できることが多く、主翼下にタンクを装備することはほとんどなかった……といわれるF-111だが、このキットにはタンクが4本も入っているかわりに爆弾のパーツが入っていない。これを別売りで手に入れなければいけないのも前世紀の香りがするが、いまや爆弾のパーツは各社から精巧なものが選び放題。作り時は、むしろ今だと思える。

 エンジンノズルのやたら立体感あるパーツ構成は組んでいて思わず笑顔になってしまうところ。胴体後端部の上下厚をエンジンの直径に合わせようとするとやや齟齬が出るのが難儀だが、裏返して見なければおそらく気にならないだろう。このキットは微に入り細に入り調整することで150点にもなるだろうけど、そもそものポテンシャルがものすごく高いから、ただ組むだけでもそうとうなワンダーが感じられるはずだ。

 いろんな会社からとんでもない解像度の飛行機模型が発売されまくる現代において、いまさら30年以上前の飛行機をあえて組んで、なお「傑作」と感じられるだろうか?というのは完全に杞憂だった。大きく、繊細で、ギミックフルな機体が今にも動きそうなシャープさと立体感でしっかり模型になっている。昭和と平成の間で、ずば抜けて優秀だと言われたその表現力は、いまでも「たしかにこれは傑作であるな」と思わせるに足る、飛行機模型のマイルストーンに違いない。

 F-111Aの再販はものすごく久しぶり。願わくば定期的に模型店の棚に並ぶ「定番品」となってほしいが、まずは今回の再発を心から喜びたい。「レトロさ」とは違う、いまだに通用するエバーグリーンな”良さ”がこのキットには宿っている。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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