チャーチル歩兵戦車、まず名前がすごいですよね。採用当時の現役首相の名前を戦車につけてしまう。「中戦車三木武夫」とか「佐藤栄作歩兵戦車」みたいなネーミングだと考えると、日本ではちょっと難しい名前の付け方だなと小学生の頃から思っていました。まあ、イギリスは自国の軍用機に「蚊」って名前をつける国ではありますけども……。
そんなチャーチル歩兵戦車は、タミヤMMにとってメモリアルなアイテムでもあります。というのも、1977年8月に発売されたチャーチルの火炎放射器搭載型(チャーチルには派生型がめちゃくちゃたくさんあるのです)である「チャーチルクロコダイル」がMMの100番目のアイテムに選ばれているのです。記念すべき100番目のキットがこのチャーチルというあたり、英軍びいきなタミヤらしいですね。
この「チャーチルクロコダイル」をリニューアルしたキットが、1996年11月に発売されました。それが今回紹介する「イギリス歩兵戦車チャーチルMk.VII」。「クロコダイル」のベースになったのが大規模な改修を経た後期型であるMk.VIIでして、いわば先祖返りみたいな形での発売となりました。
キットの内容はまさにオールドスクールなMMそのもの。ガーンと一発で形になっている車体上部がめちゃくちゃ頼もしい。チャーチルは履帯部分にものすごくボリュームがあり、車体から大きくはみ出しているのがチャームポイント。箱を開けて即その面白ポイントが叩き込まれる親切設計です。
前述の通り、チャーチルの特徴はその足まわり。小径の転輪を大量に並べた設計のため速度は出ないものの走破能力は非常に高く、急斜面でも森の中でもガンガン進めるという特徴がありました。歩兵の支援をするのが歩兵戦車の仕事ということは、歩兵が入っていけるようなところにはどこでも平気で入っていけなければならないわけで、走破能力が高いというのはこの手の車両の必須アビリティだったわけです。
キットはそんなチャーチルのムカデみたいな足まわりも見事再現。悪夢のような数の転輪がついてきますが、これだけ数が多いと逆に組み立て終わった時に一個一個は大して目立たないので、ランナーから切り取ってそのまま組んじゃえばいいんじゃないかな……と思います。幅がめちゃくちゃ広い履帯も軟質樹脂で再現。グルッと巻いたら終わりの手軽さがいいですね。
形の単純さもあり、結構テキパキ完成させられるのもこのキットの良いところ。現代のキットと比べるとグッとシンプルではありますが、ゴツくて巨大、岩や要塞を思わせるようなこの戦車の姿はしっかり楽しめます。
そして、リニューアル版ならではのお楽しみがこの追加パーツ。元々の「クロコダイル」でも何かしら報告をする歩兵とイカしたポーズでそれを聞く戦車兵の2人がついていましたが、1996年版では戦車兵3人と市民1人、それに手押し車とその荷物という追加パーツが付いています。この戦車兵3人の顔が、マジでイギリス人の顔。ちょっと面長で鼻筋も長く、特に車長の顔つきは「あ~、なんかイギリス人っぽいな!」という説得力があります。
そしてさらにいい味なのが、ワインを手渡す農夫らしきおじさん。チャーチルはノルマンディ上陸後バリバリ使われた車両なので、シチュエーションとしてはフランスでの戦闘の合間、ドイツ軍から解放された市民がワインでイギリス兵を歓迎……といった感じでしょうか。
元々MMでは一般市民のフィギュアがかなり貴重。しかも手押し車や牛乳缶、透明部品のワインボトルなども付属しているということで、当時はこの追加パーツ目当てでこのキットを買った人も多かったのではないでしょうか。なにより、「戦闘以外のシチュエーションの情景が、一箱で完成する」というのが最高ですよね。
ということで、チャーチルMk.VIIでした。時代を跨いで二度発売されたことから、70年代MMの明快さと90年代AFVブーム期の余裕を感じられる珍しいキットになっていると思います。もっと言えば、すでにこのキットの発売から25年以上が経過しているんですよね……。時の流れに思いを馳せつつ楽しみたいプラモデルだと思います。
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。