出会いというのは心ときめくものですが、いくら求めてもいつ起こるかは神のみぞ知る、もどかしいものでもあります。そんな巡り合いの機会に期待できるのが旅というものの大きな魅力だと思います。今回の目的地、塩尻市までは名古屋駅から特急しなので約2時間。自由振り子式車両とクネクネ山道のマリアージュが楽しい旅路です。
素敵な旅でも、つい定番のパターンに走ってしまうのはよくあること。地のお酒、有名な温泉、名産の果物……。そんな「観光地あるあるフォーマット」に迎合しているときに、日常の趣味がボコッと現れると「でもオマエが一番好きなのコレじゃん」と唐突に言われたような、心の内を見透かされたともつかない強い衝撃を覚えます。ほんの一瞬、心臓が止まるほど。
……というわけで、塩尻の旅最大の思い出は一般的な観光名所ではなく、市役所となったのでした。待ち合わせまでの暇潰しにふらっと立ち寄った市役所。そのギャラリーにならぶ名産品のワインや地元サッカークラブゆかりの品。そしてふと目が止まった先に現れた見慣れた樹脂と箱。どうも、有限会社丸山化成と有限会社中信紙工という会社が塩尻市にあるそうです。
ふたつの社名にしっくりこなくても、PLUMとかピーエムオフィスエーというメーカーをご存知の人も多いのではないでしょうか。プラモ以外にもフィギュアとかでよく聞く名前ですよね。お恥ずかしながら、今日まで長野県のメーカーとは知りませんでした。先述した2社は、プラモデルやフィギュアの製造過程の一部を請け負っていることが窺えます。
樹脂の会社と紙の会社。扱う素材も技術も違う2社の仕事がひとつの製品で繋がって我々の元に届くという事実が、一切の説明もなく展示の配置だけで伝わってくるすごくクールな展示。仕掛けた人のドヤ顔を勝手に想像してちょっと可笑しくなった頃には、帰ったらこのプラモデルを組むのが当然のことだと理屈抜きで納得していたのでした。
パッケージや説明書を見回しても先程の社名はありません。それが小さな秘密を共有してるようでなんか嬉しい。箱に設けられたボール紙の仕切りにもてなしを感じたり。そして時々現れるちょっと不親切なゲート配置や一言足りない説明書がむしろ愛おしい。別に工場見学をしたわけでもないのだけど、先日見たのと同じ風景を見て、舌鼓を打った名物を同じく食べているであろう人たちがこれを作っているんだなぁ、という勝手な想像だけで嬉しくなる。印度に行かなくても価値観って変わるんですね。
いつもだったら潰して捨てちゃう外箱も今回は本体の1つ。飾り棚の一員として迎えようと思います。意外なところにあった今回の出会い。模型に限らず、こんな縁は案外どこにでもあって、普段は気づいていないだけなのかもしれませんね。