たとえば自衛隊の輸送機。モサッとしたシルエットで、災害とか海外の紛争なんかのニュースでちょっと見るくらい。カッコいいか?オレはカッコいいと思うよ。でも、それはたぶんプラモデルで知ったというより、どこかの基地にドーンと着陸してくるのを見たとか、どこかの空港で旅客機の窓からツーっと輪郭を変えていくシルエットを横目で眺めたからだ。そういう姿を見ているのは、たぶん航空自衛隊の人だろう。
赤塚聡という航空写真家は、なんと元F-15イーグルのパイロットだ。TACネーム(ピート・ミッチェルなら、『マーヴェリック』)は『Nikon』である。のちにカメラマンへと転向し、航空自衛隊の飛行機に同乗して大量の空撮をこなしてきた。そんな彼が30年にわたって撮り続けた航空自衛隊の「空撮オンリー写真集」が発売された。値段は張る。でも貴方が飛行機のプラモデルを作るなら、見ておいたほうがいい。なにより写真集というのは、思い立ったときに棚からスッと出せるよう、あなたの手元にあることがいちばん大事だ。
たとえば自衛隊のイーグル。もう親の顔より見たかもしれないこの背中。でも、これが濃い青に満たされた高空をマッハのスピードで飛翔しているのを、強い日差しの中で見たらどんな表情をしているのか、自分の目で見たことはない。背中だけじゃなくて、腹も、サイドから見た切れ味鋭い相貌も。
空撮だから、当然こまかなディテールを仔細に観察するような写真ではない。むしろ、ハイコントラストな空の光線のなかで刻々とその印象を変える27種の飛行機たちが、これでもかというほど登場する。240ページ、フルカラー。冗長な説明はない。元パイロットだからこその端的で過不足のないまえがきと、巻末にコンタクトシートのごとくまとめられた全ての写真とシャープなキャプション。何度も該当ページに戻り、自分が作ろうとしている飛行機の「ほんとうの姿」を眺めよう。プラモデルを作ることと、飛行機を真に見ることは、切っても切り離せない関係にある。
手先が器用かどうかより、大事なことがここにある。飛行機は、飛んでる姿がカッコいい。カッコいいから、僕らは飛行機の模型を作るのだ。お気に入りの一枚を見つけて、感じ取ったインスピレーションをパーツにぶつけよう。説明書だけを読んで作るのとは全く違う、あなたが見た飛行機の姿を手にすることができるはずだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。