ウォーハンマーはイギリス生まれのミニチュアゲームであり、そのゲームのコマはランナーから部品を切り取って接着剤で貼って組み立てる形態をとっている。なので、ウォーハンマーはゲームだけどそのコマは事実上プラモデルである……という話は、ここ数年でずいぶん認知されたように思います。大手家電量販店にキットが置いてあったりするし、『月刊ホビージャパン』に毎月のように記事が掲載されている。組んだことはなくても「なんか昔のメタルバンドのジャケみたいなプラモが売ってるなあ」くらいの認識はある人も多いのではないでしょうか。
自分も実際にウォーハンマーのミニチュアを色々作ってみたんですが、作ってみるとこれが面白い。部品は想像もしなかった角度からバチバチくっつくし、完成したミニチュアの見た目も日本のプラモデルと全然文法が違う。素材と調理法はいつもと同じプラモデルのやつなのに、味わいにカレーと肉じゃがくらいの差がある。なるほどこれは異文化だ……となるわけです。
そんな中でも決定的に異文化だと思ったのが塗料。ウォーハンマーのミニチュアはこのnippperでも散々紹介されているシタデルカラーという水性塗料を使った塗装法が推奨されており、その塗装法には大量のゲームのコマをハイスピードかつカッコよく仕上げるための叡智が詰まっています。
しかし前述のように、詰まっている叡智の種類がいわゆる「プラモデルの塗り方」と全然違う。全部水性塗料のはずなのに、下に塗る塗料と上の方に塗る塗料と陰影をつける塗料とそれ以外の塗料などなどに分類されていて、全部トータルで「システム」なのだそう。「めんどくせえ、じゃあおれは今まで通り昔馴染みのMr.カラーで充分だい!」となってしまう気持ちもわかります。
前置きが長くなりましたが、このほど刊行された『ウォーハンマー スタートアップガイド』は、そんな意固地になりかけたモデラーにうってつけの一冊です。この本、「ウォーハンマーってこういう世界観だよ」とか「こういうプラモデルが箱の中に入っているよ」みたいなことも解説してはいるんですが、本の大半はシタデルカラーの使い方の解説。つまり、事実上ウォーハンマーのスタートアップガイドではなく、シタデルカラーを使った塗装法のスタートアップガイドです。
スタートアップというだけあって、解説は懇切丁寧。まずシタデルカラーでの塗装に必要なものの準備から始まり、下地作りからグラデーション塗装やドライブラシのかけ方、さらにミニチュアの顔面やセンサーや金属などの発光部の塗り方、ダメージ表現や「ミニチュアの台座に地面をつくるための専用塗料」みたいな用途特化型塗料の使い方まで、一段づつステップアップしていける作りになっています。解説しているのは普段からバチバチにペイントしてるプロフェッショナルの皆さんなので、書いてあることも全部理屈が通っており納得がいく。自分もシタデルカラーを導入してからしばらく経ちますが、「へ~、そうなんだ……」となることがかなり書いてあってタメになりました。
地味にありがたいのが、巻末に掲載されているカラーチャート。よく言われていることですがシタデルカラーは色の名前がウォーハンマーのキャラクターや要素に因んでおり、同じグリーンでも「サイバライト・グリーン」「カバライト・グリーン」なんて名前だから、どっちがどういう色なのかよくわからない。「XV-88」なんていう、一周回ってタミヤカラーみたいになっちゃってる塗料もあります。もちろんネットで調べたりすればわかるんですが、紙の本の紙面で色の名前と一緒に全部まとめて眺めることができるのはやっぱり便利。自分が欲しいのはどの色なのか、一髪で把握することができます。まあ、シタデルカラーは「システム」なので、真価を理解しようと思うと「ガタガタ言わずに全部買う」のが一番手っ取り早いんですが、そんなん無理だし今度塗るフィギュアの中で何色か使いたいだけなんじゃ、みたいな気持ちの時にはこのカラーチャートから色を探すのがオススメです。
あまりにもウォーハンマーと密接にくっついてるし、実際ウォーハンマーのミニチュアを塗るための塗料なのでこの本でも作例は全部ウォーハンマーなんですが、考えてみればシタデルカラー自体はただの高性能水性塗料です。最近自分は3Dプリンターで出力した1/60スケールくらいの兵隊のフィギュア(ダイアクロンと並べて遊びたくて……)を塗るのにシタデルカラーをよく使っているんですが、これがやっぱり面白いようにスイスイ塗れる。
シタデルを買ったらMr.カラー使用禁止というわけでもないですし、シタデルカラーはウォーハンマー専用塗料というわけでもない。ウォーハンマーストアに行って店員さんに「ジーパンみたいな色ってどれですか?」とか「生肉みたいな色ってどれですか?」みたいなウォーハンマーとは1ミリも関係ない聞き方をしても、その場でオススメの色を教えてくれます。で、実際買って帰って塗ったらジーパンみたいな色が塗れる。模型作りにおいて、これは強力な武器だと思うのです。
という観点から考えると、まさにこの本はシタデルカラー未装備のモデラーに新たな武器を授けるような一冊と言えそう。掲載されている作例はウォーハンマーですが、そこから自分の土俵にいくらでもスライドさせられるテクニックとマテリアルがどっさり載っているので、むしろ「今までミニチュアゲームのコマなんか全然興味なかったわ」という人の方が面白く読めるはず。シタデルカラーという異邦の新兵器のマニュアルとして、一冊手元に置いておくと役立つ一冊です。
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。