本当に好きなプラモを、いつかカンペキに作りたい! そういうときは同じキットをふたつ手に入れて、ひとつをストレートに組むのがいい。今回は待ちに待ったエアフィックスの1/48 バッカニアを矢も盾もたまらずひとつ組み上げた。もちろん塗装はしないし、色気を出して改造もしない。ただひたすら、このキットがどんなふうになっているのかを知るためにパチパチとパーツを切り出して、ガンガン貼っていく。新しいプラモ、大好きな飛行機。目の前で大きな飛行機が形になっていくこと自体が、本当にうれしい。
プラモを塗りながら組んだことがある人ならわかると思うけど、説明書のとおりに組み立てていくとほとんどの場合はどこかで筆が入らないところが出てきて、塗れなくなってしまう。塗りながら組むためには組み立ての工程全体を俯瞰して「まずここを塗ろう」「ここはある程度組んでから塗っても大丈夫だ」「塗ってからこのパートを組み上げて、あとから塗るときのことを考えてマスキングしておこう」みたいなことを計画しなければいけないのだ。
しかし、塗らなければ説明書のとおりに手を動かしてけばいい。そうすると、作りながら資料を見たり、どんな手順で塗るのかを想像するだけじゃなくて、実際に指先で感じ取りながら二度目の「強くてニューゲーム」に挑むことができる。「塗らないなんて、もったいない」というのはあなたの心の声じゃなくて、誰かの声を気にしているだけだ。「そのプラモのことを全部理解してからふたつめに挑み、キレイに仕上げられる」というメリットの大きさを考えたら、こんなに安くて楽しい投資はない。
胴体中央部の内部構造は同社の1/72モデルとほとんど同じだ。違うところといえばエンジンが再現されていることだが、左の片方ぶんしか入っていないことは説明書を漫然と眺めているだけでは気づかない。こういう意外な状況に本番でいきなり遭遇するとかなりビビる。しかし事前に知っておけば、このパーツを塗るべきか塗らずに済ませてOKか判断できるし、塗装や組み立てのペース配分も予測が立てやすい。先にガッチリと貼ってしまうと後からちょっと位置を調整したいときにしんどいな……みたいなことも予見できる。
説明書だけ読んで「ふーん」と言っていた開閉選択式のエンジンのアクセスパネルも、パーツ裏から見たらミニ四駆の肉抜きをする寸前のような穴がズラッと並んでいた。「ここにピンバイスで穴を開けていけば、キレイに切り取れるでしょ」というオモテナシだ。敵を知り己を知れば百戦殆うからずなんて言うけど、ここ以外にもピンバイスを使って穴を開けるべき場所がたくさんあって、組み上がってから「あ、開け忘れた!」というのも二度目ならまず間違えない。一周目の説明書をノートのように使って、気をつけるべきことを書いていく。
プラモでは、100のチカラで挑んだ場所が完成後にはいまいちアピールポイントにならなくて「そんなに頑張らなくてよかったな」とか、「こんなもんでしょ」で挑んだ場所が完成後にめちゃくちゃ目立つ……なんてこともしばしば。
たとえば爆弾槽のなかに1/48ならではの配管や補機類のパーツをちまちま貼る工程がある。足収納庫は空気の通り道や機体のフレームと複雑に入り組んだ構成になっていて、ここも(裏返さなければ見えないが)どうやって塗ろうか、どれくらい塗り分ければ満足できるか組み上げた後なら想像がつく。
ずっと地図を見ながら歩いていると疲れるが、いちど訪れたことのある土地ならばどれくらいスピードを出していいのか、どこらへんで曲がればいいのか地図を見なくてもざっくりとわかるように。
まずは主翼を折りたたみ、テイルコーンがパックリ開いた状態でひとつ組み上げた。目立つ箇所ではないけど、二度目では絶対に失敗したくないところ、気をつけたほうが良さそうなところはもう全部理解した。そういえば、1/72が発売されたときも同じことをやっていた。手前が1/72、奥が1/48。こうして並べると、カタチは同じでも佇まいはまったく違う。次に作るときは、もうカンペキだ。プラモは案外、「覚えゲー」の側面を持っている。最高に好きな飛行機だから、失敗は先に。あなたもいつか傑作を作りたければ、まずはお気に入りのキットをふたつ買ってこよう。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。