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天才的な肉抜き穴/SDW ウォーロックイージスガンダム

 今年いちばん肉抜き穴をこの目で確かめたかったプラモがやってきました。そしてやっぱり、その景色はすばらしいものでした。
 安価でゴージャスでいつでも手に入れられるガンプラ、SDW HEROESシリーズ。歴史上の偉人やヒーロー、ヴィランとガンダムを重ね合わせたキャラクターをメタリックカラーやクリアーパーツを巧みに組み合わせて立体化しています。少ないパーツ数で手早く組めることがSDガンダムの使命ですから、厚みや太さのあるユニットは裏面が豪快に肉抜きされているのが特徴。

 往年のサタンガンダムとイージスガンダムをかけ合わせたウォーロックイージスガンダム、頭部には禍々しいツノがあしらわれています。節くれだったデザインでありながら優美なS字のカーブ。プラモは「開いた形状」のパーツをふたつ組み合わせて「閉じた形状」を表現するのが常道ですが、パーツ数(=価格)を抑えるためにこのツノは左右それぞれワンパーツです。さあ、裏返してみましょう。

 厚みのあるパーツはプラスチックが金型の中で冷え固まる過程でどうしても収縮してしまうため、「ヒケ」と呼ばれる肉痩せが起きます。それを回避するために考えられたのが肉抜き穴。このツノも裏面をごっそり空洞にしておけば前から見たときの造形がしっかりと表現できたはずですが、上の写真のように肉抜き穴も禍々しくデザインしてあります。
 ある程度ガンプラに親しんでいる人は肉抜き穴にパテを詰め込んでヤスリで削り出し、「想像上の本来の形状」に仕上げるのがひとつの嗜みとされていますが、このウォーロックイージスガンダムでは前面の造形と韻を踏んだ迷路のような意匠を裏返さなければ見えない面にわざわざ設けています。イキでしょ。

 閉じればマントとして、開けば悪魔の羽として見た目を盛り上げるパーツも大ぶりな造形で、表面に入れられたレリーフ状の彫刻が美しい。これも何気なく裏返してみて驚いたんです。

 金型からパーツを押し出すためのピン(丸い痕跡が残ります)を避けて、曲線と直線が複雑に絡み合うゴシックな造形が裏面にも彫刻されています。ここは完成後に閉じてディスプレイすれば裏側、開いてディスプレイすれば表側になる部分ですから、ただツルツルの「そっけない裏側」では味気ないだろうと考えた送り手のアイディアが刻み込まれているというわけなんですね……。着物の裏地にこだわるようで、かなりおしゃれ。

 組み上げた頭をくるっと回して眺めます。肉抜き穴を見ると反射的に「埋められなければいけないもの」と捉える人も多いため、SDガンダムに触れたことがない人も「そうか、肉抜き穴は埋めなきゃいけないんだ……」と思いがち。しかし、こんなふうに「肉抜き穴にも手を抜かないデザインが込められているんだぜ」という話は埋めてしまえばできなくなってしまうというもの。
 みなさんも、「こんなところに丁寧な仕事が入っているんだ!」というワンダーを、ぜひとも見つけて発信していきましょう。プラモだからこそ見える景色には、まだまだワンダーが埋まっています。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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