兵隊だけでは戦争はできません。なので、当然日本陸軍にも将校はいました。基本的にはそれなりの軍歴を積まないと将校にはなれないので、みんな大体おじさん。タミヤMMの「日本陸軍将校セット」は、そんな日本陸軍のおじさんたちの姿を、3Dスキャンとデジタル造形で克明に捉えたキットです。
「日本陸軍将校セット」が発売されたのは2014年11月。ちょうどこの時期はタミヤのフィギュア造形方法が変化する過渡期にあたり、3Dスキャンとデジタル造形が取り入れられるようになった頃です。今となってはタミヤのフィギュアがデジタル造形で作られているのは当たり前となりましたが、当時はみんな「すっげ~~~! 服のシワが! 服のシワじゃん!!」と驚いておりました。ていうかあの時期ってもう10年近く前なのか。マジかよ……。
で、タミヤ製の日本兵としては本当に久しぶり(車両ではなく1/35のフィギュア単品のキットとしては1976年の「日本陸軍歩兵セット」以来)となるこのキットが発売されたのは、そういう時期でした。ドイツ人やアメリカ人ではなく、我々が普段見慣れた「日本人のおじさん」が、3Dスキャンされた挙句バラバラになってランナーにくっついている。見慣れないビジュアルすぎて、初見の時は「なんだこれ……」と思わされました。
キットの中身はランナー3枚。そのうち2枚は同じもので、フィギュア以外の付属品がパーツになったものです。デジタル造形のキットはパーツ分割がトリッキーになりがちですが、このキットは割と「頭! 胴体! 腕! 脚!」という感じでオーソドックスな雰囲気。ですが、上衣の裾のラインで上半身と下半身を分割された将校など、「おっ!?」と思わされるような部分もあります。
日本兵ならではの装備である軍刀や、「尋常小学校の想ひ出」みたいな雰囲気の机と椅子など、日本軍らしい付属品も多数。将校のプラモということで九四式無線機や鉛筆削りみたいな形の発電機、九二式電話機とその小絡車(ケーブルのリールですね)などなど、指揮通信用の小物がたくさんついているのも嬉しい。九二式歩兵砲の薬莢箱が8つもついているので、フィギュアを並べてその周りに積み上げただけで「前線後方の簡易指揮所だな!」という風景ができあがります。
で、組み上がるとこんな感じ。見ればわかると思うんですが、佇まいがものすごく自然。頭の大きさといい手の長さといい、どこからどう見ても日本人のおじさんです。軍衣の上に巻いたベルトの食い込み方やその周囲のシワのより方もマジで自然。しかしまあ、全員すばらしく姿勢がいいですね。さすが軍人……。
そしてグッとくるのが、軍刀を体の前に立て、その上に両手を重ねて置いたポーズの将校が見事に立体化されていること。このポーズ、まさに日本軍将校のド定番ポーズなんですよね。日本軍の兵隊が集合写真を撮ると、このポーズのおじさんが最前列の真ん中あたりに座っていがちすぎる。このポーズの日本軍将校がカリカリの彫刻で立体化されただけでも、このキットの存在意義は充分あると言えましょう。
そしてさらに「こういう人いるわ~」となるのが、その脇の椅子に座っている将校のおじさん。この、両手を膝に乗せて軍刀を片方の脚にあずけるポーズ、軍刀両手乗せおじさんよりもさらによく見る座り方です。そしてこの人に関してさらにグッとくるのが、腰にベルトをしていない点。ベルトで締めてないので上衣の腰のあたりがゆったりと裾にかけて流れているんですが、その流れ方がマジで自然。見たことある。マジで、どこで見たのかわからないくらい日本兵の集合写真で見たことあるんですよ、この座ってるシルエット。このてれっとした上衣の自然なラインを再現するのに、3Dスキャンというのは本当に有効だったのだなあと思います。
というわけで、「めちゃくちゃよく見るポーズの日本軍将校のおじさんを、現代の技術でカリカリに再現したプラモ」がこのキットということになります。あまりにもよく見るポーズの人がそのまんま1/35のサイズに縮小されており、謎の笑いが発生します。人って写真で見慣れているものが縮小されて手元に出現すると、なんかつい笑っちゃうんですね……。もちろん、日本軍戦車とかと組み合わせてもビシッと情景が完成する使い勝手のよさも魅力。マジでマストバイなプラモですので、ぜひ買ってください。
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。