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万人に狂気を届ける柔らかなイラスト/『巨人機の時代』を眺めて作るプラモデル。

 イラストを描ける人というのは、最高の翻訳家でもある。とくに見たこともないような機械、歴史の中に生きてはいたけれど、もはや現存しないものについて知ろうとするならばなおさらだ。飛行機のなかでも突拍子もない目的のために巨大になったものたちは、その殆どが現役を退き、いまや博物館に数えるほどの機体が保存されているのみ。運の悪かったものはもう写真や文献でしかうかがい知ることができない。そんな巨大機たちの特徴をユニークな筆致で描く渡辺信吾のイラスト集が刊行された。

 図解……といっても外観だけでなく、内部構造やその機体の特徴的な運用方法がリアリスティックと言うよりむしろコミカルな線で描かれているこれらのイラストは、飛行機模型専門誌『スケールアヴィエーション』の誌上で連載されてきたもの。フルカラーで描かれていて、航空イラストの王道である緻密で繊細な表現から少し離れたわかりやすい雰囲気が飛行機の持つ狂気を優しく教えてくれる。飛行機を知らない人でもなんだか親しみを持って眺められ、そこから仔細に読み込んでいくと「狂っているな!」と思える誘導の仕方は、まさに翻訳と呼ぶに相応しい仕事だ。

 飛行機というのはたいがい外側がツルツルで、内部は複雑なメカニズムで埋め尽くされているもの。そういうわけで、案外人間は(自分が乗ったことのある旅客機のキャビン以外)飛行機の内側と外側がどう対応しているのかを知らない。要は、飛行機というものを外側のシルエットだけで捉えていることがほとんどだ。
 プラモデルも同様で、中身を再現することが目的になっているようなゴージャスなキット以外はコクピットとエンジンがちょろっと再現されているくらいで、基本的には飛行機のアウトライン……つまり、輪郭を組み上げて楽しみ、そこに着色して飛行機の似姿を作る遊びである(だからこそ、本来キットでは表現されていない内部メカを作り込むことが一歩進んだ表現としてチャレンジされるし、それを見た人はワクワクするのだと思う)。

 この本のどことなくライトな雰囲気は、「よし、巨人機の中身を作ろう!」と決心させる類の資料性とは対極的なところにある。プラモデルを作るにあたって、ただ知っている形を再現するのと、その形の意味を知って作るのは(結果が同じだとしても)まったく違う体験だ。知的興奮……と言ってしまえば陳腐なのだけど、「オレが今作っている飛行機は、じつはこんなにイカれたものなんだ!」ということを頭の片隅に置いて作るのは楽しい。
 完成品を見ただけでは伝わらない、静かな喜び。それは作る人だけが味わうことができるものだ。これまでただシルエットの違いで捉えていた数々の巨人機たちが突如個性を持って僕らに語りかけてくるような体験を、飛行機に詳しくない人にも手軽に味わえるイラスト集。そのタイトルが文林堂の伝説的な名著からそのまま拝借されているのは、編者の「あの感動と衝撃をより多くの人にまた味わってもらいたい」という意志の表れであるはずだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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