カーモデルと言えばエンジンがあるorないに大別されますが、箱を開けたらワーオのこのシャーシ。エンジンルームの下には石川五エ門にやられたのかと勘違いするようなエンジンの半身。なるほどエンジンは有るようで無いし、無いようで有る。これが「実物をなにもかも全部そのまま小さくしたからエラい」と言い切れない模型の面白いところなのよ。
「本当はそうなっていないのに、そう見える」という設計をして、ユーザーが共犯者になって「エンジンが入ってるみたいでしょ?(ホントは上から見えるところだけなんだけどさ)」と見る人をびっくりさせる。そういう遊びが楽しいんだね〜。
ひとまずこの大トロを味見したければ、シャーシを黒く塗って、エンジンブロックだけアルミシルバーで塗るのが吉。タミヤのフラットアルミっつう色は本当に素晴らしくて、ツヤ消しの白っぽいシルバーになるし筆塗りでもかなりそれらしい雰囲気が出る。タミヤアクリルなら二日酔いの日の歯磨き粉みたいな匂いがいつだってプラモと出会った頃の気持ちにタイムスリップさせてくれるね。プラモ用の塗料って色ごとに香りが違うから楽しいよね……あれ、こんなこと言ってるのオレだけかな……。
このクルマの特徴であるFRレイアウト。エンジンが前で駆動輪は後ろ。シャーシのど真ん中にはエキゾーストパイプと一緒にドライブシャフトが通る。こんどは裏返して見える下側だけが再現されていて、これまた楽しい。しかし複雑なサスペンションの構造はまるっと再現されていて、隙間のあるごちゃごちゃとしたリンケージの集合体はクルマの模型を組み上げる喜びに直結しているなと感じる。
半分しか再現しないもんね(でもちゃんと「そう見える」からいいでしょ?)というところと、ちゃんと実物の構造を再現しておきましたよ、というところのコントラストがこのプラモのエキサイトメントなんだわ。
ボディ色は何にしようかな……と思ったけど、やっぱりこのモデルの面白さ(精密さや忠実さとはまた違うところ)が一番伝わるのはやっぱりプラスチックそのままのシンフォニーでしょうと考えて白いボディはそのまま載せることにした。最初に塗ったシルバーのところなんてほとんど見えなくなっちゃうんだけどさ。
でも、イマドキのクルマ特有の、補機類の隙間からちらっと見えるエンジンの中枢がただのレリーフだってことを忘れちゃうような、とってもいい構成。見えるところを上手く拾って、まるでトリックアートのように再現する。本物の構造をそのまま愚直に小さくするのとはまた違う、設計者のセンスと作る人のワンダーが噛み合った模型の醍醐味がここにあると思うんですよね〜。そんじゃまた!
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。