

その出来栄えに誰もが「本物のようだ」と息を呑む。林 周市の飛行機模型が宿すリアリティの源泉は、ずばりウェザリングにある。実機の解像度に迫るために必須だと思われているような超絶工作は行なわず、ほぼ無改造で組み上げられた機体の表面にあらゆる手法でウェザリングを施すのが彼のファイティングスタイルであり、彼にしてみればウェザリングこそが最良のディテールアップなのだ。

これまで林 周市がメインモチーフとしてきたのは「ロービジビリティ(グレーが主体の低視認性迷彩)塗装のアメリカ海軍艦上ジェット戦闘機」であった。縮尺模型としてはどうしてものっぺりとしがちなグレーの(つまり無彩色で明度差も乏しい)機体には、褪色表現や各種の汚れを付加することでドラスティックな変化をもたらすことができる。さらに描き込めば描き込むほど細密な表現に見える1/32スケールにモデルを絞ることで、自らのストロングポイントを明確に演出してきた。これまでの彼がひたすらに臨場感のある作品をテンポよく発表できたのは、得意とするコースを何度も走り込むレーサーのようなスタイルを堅持してきたからでもある。

今回、「林 周市のウェザリング」というテーマで再度作品集を刊行することになった理由は、彼自身のなかに変化が起きたからだ。多作であるからこそ芽生えた「新しい方向性の作品を開拓したい」という気持ちは主戦場である1/32スケールから離れることと、自らが苦手と公言してきた迷彩塗装の機体と対峙することに繋がった。結果として、2020年頃からチャレンジしはじめた作品たちには豊かなバラエティとウェザリング手法の大胆な転換(その過程で、林自身にとっても多くの学びと発見があった)が見て取れる。

ロービジの機体ならば「ウェザリングによって色味を追加し、乗算していく」という行為は比較的シンプルで結果もリニアに予測できるが、ブルーやグリーン、アースカラーといった色味のある迷彩塗装にウェザリングを施すとなれば話は別だ。リアリティを演出しながら補色や同系色のもたらす効果を操り、最終的な色の調和と意外性が作品全体の印象を決めるのは至難の業だ。同時に、1/32スケールならば可能であった「実直に、細密に汚れを描き込む」という手法も1/48スケールでは通用しない場面に遭遇することになる。そこに求められるのは「細密に”見える”表現」であり、実機写真を観察し尽くすことで得られる取捨選択の力と、それを模型表現に置き換える見立ての力と言えるはずだ。
林 周市が何を考えて「1/48スケールの飛行機模型表現」と向き合ったのか、その結果がどのような作品として結実したのか。豊富なハウトゥも合わせ、本書の内容をじっくりと眺めて自らのものとしてほしい。
写真/スケールアヴィエーション編集部
執筆/高久裕輝(本誌内まえがきより転載・一部改変)