

出来て数年の真新しい東名高速をトップギアの4速を維持して夜通し走った。
子どもらがどうしても東海道新幹線に乗って「月の石」を見に行きたいと言うものだから,妻は付き添いで先に向かうことになり,いつもは4人乗りで賑やかな車内も今夜は自分一人だ。カーステレオを切っているから聴こえるのはエンジン音と道路の継ぎ目を越えるたびに鳴る振動のみ。高速道路を照らすナトリウムランプがクリーム色のボディーを照らし,去り,照らすを繰り返す。
メイプルオレンジより明るい橙色のシビックに乗る友人は東武鉄道の通勤電車みたいじゃないかとこの車体色を見て笑うが,私はこの色が好きだ。

確かにこのクリーム色以外に,情熱的で若さがほとばしる雰囲気の赤なんかも選べたけれど,寡黙な僕にはどこか借り物みたいで日常の足に乗るには気恥ずかしい。何よりひと目で私の車だと分かる色がよかった。それに黒基調との車内との相性もいい。
ドライバーズシートに座ってウッドステアリングを握って,そこから垣間見えるずらりと並ぶ計器類。メーターのレッドゾーンの手前の黄色が良い差し色になっているし,メーター類が嵌め込まれている台湾楠の艶やかなウッドパネルには惚れ惚れする。
少し目線を上げれば,砲弾型のフェンダーミラーが輝いている。一見地味な色だからこそ,細部が際立つ。神が宿るのは偶然ではなく,緻密な計算の上のみだ。だからこそ私はこの色を選んだ。

……なんて持ち主の思いが、部屋の片隅にプラモデルの箱絵を立てかけて眺めていると沸き立ってくる。
もし新車時にハンドメイドの117Coupeのオーナーになる機会に恵まれていたら,僕はどんな色を選んでいただろうか。篠山紀信氏の視点で切り取られたカタログを眺めながら悩むという贅沢なひと時を過ごしただろう。今は叶わないけれど,箱の中の無垢なボディーを眺めていると,そんなオーナーの気持ちを疑似体験できる。

ランナーを見ていると,クーラーのスイッチを見つけた。もしかするとオーナーは妻にエアコンディショナーだけは付けて,とヂーゼル機器のクーラーをオプションで加えたのかもしれない。そんなストーリーも浮かんでくる。プラモデルは僕の憧憬を形に出来る触媒のようでもあり,なおかつ想像を膨らませる酵母のような存在だ。