プラモも料理も手探りな日に備えて/味を締めるために常備する調味料。

 雑でもいいからメシを作って食べなきゃ……という日は、冷蔵庫にあるものをホイホイ切りながら色々考える。「何を作るか」じゃなくて「とりあえず目の前にあるものを食べられる状態にする」が目的なので、料理は名状しがたいものになる。火の通る順番を考えながら、なんとなくフライパンで炒めつつ、塩なり酒なりをそこに加えながら途中で中華っぽい味なのか居酒屋の肉野菜炒めみたいなものになるかをその時の気分で決めるのだ。

 こういうときにめちゃくちゃ重宝する調味料が我が家の冷蔵庫には常備されていて、ひとつは「スタミナ源たれ」であり、もうひとつは「香味ペースト」だ。ただひたすら味が濃くなるのではなくて、どこかの料理の達人が考えてくれた配合比の味があり、薄く効かせても濃く効かせても「うまい」と思える着地点にたどり着けるのがいい。まあ、何を食っているのかは最後までよく分からないんだけど。

 バンイップ・ブーメランのスケール表記は1/72とあるので、同じスケールの戦車を見ながら汚しのプランを考えるんだけど、塗装のきっかけになるディテールがあんまりない。このプラモ、フォルムと可動と組み立てのダイナミズムは素晴らしいのだがとにかく外観がシンプルなので説得力のある仕上げ方がなかなか思い浮かばない。あまり失敗しなさそうな手段としてスポンジによる塗装ハゲをやろうかな、とポソポソ手を動かしてみる。「これだ!」といういつもの感触はなくて、その先行き不透明な感じはちょうど「何を食べるか決めずに料理をしている時」に似ている。

 それなら、とペンによるスミ入れやチッピング(細かな塗装ハゲ)を入れようかなと思っておもむろに線を描いたら、これが見事に油性ペンだった。はみ出たところを拭き取ろうにもどうにもならない。何をやってもうまくいかない日というか、注意力が散漫な日というのはある。ただ、これは料理で言うとまだ致命傷ではなくて「ちょっと合わない具材が入っちゃったな」くらいのゾーンである。そう、オレたちには源のたれ(もしくは香味ペースト)があるのだ。

 タミヤのスミ入れ塗料、ダークブラウンだ。あまりにも多くのプラモを救い、最後にピリッと締めるという大役を果たしてきたからこそ、瓶はこれだけ汚れている。ちぐはぐだった色とかイマイチまとまらなかった汚し塗装とか、そういったものたちの上にこのタレをさーっと薄く伸ばしながら塗ると、味が一気にまとまる。

 黒じゃダメで、オイルにも土にも錆にも見える茶色。このオールマイティさにより掛かるとどんな料理も同じ味になってしまいがちだが、かといって「それはないでしょ!」という味には絶対にならないという安心感がある。濃すぎたなと思えば拭き取れるし、ピンポイントでぐっと暗いところを作ることもできるし、筆や綿棒でつつけばいろんな表情を出すこともできてしまう。まさに料理のシメのオールラウンダー。

 途中、本当に「どうしよう……」と不安になったし、なんなら放り投げてしまってもよいくらい自分の気分と離れてしまったプラモも、最後の最後に「お、プラモらしい雰囲気になったな」と思えるようになった。多少塗り分けラインがビビっていても、そこがどんなふうに汚れているのかわからなくても、好きで選んだはずの色がどうにもマッチしなかったとしても、タミヤのスミ入れ塗料(ダークブラウン)があればプラモはクローズできる。「よし、できた」とつぶやいて、次のプラモに行くために常備しておきたい調味料があるとしたら、やっぱりこれ一択なのである。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。