刺し身で食えるタミヤの新作カーモデル「マクラーレンセナ」がマッハで完成する理由。

 昨日のエントリでもお伝えしたとおり、タミヤの最新作である1/24マクラーレンセナがすごい。正直パーツは多いし構造は結構複雑だしボディカラーの入り組み方もなかなかのもの。なのに「超速で組み上がる!」と感動できたのはなぜか。今日はそんな視点でこのキットの見どころをビシバシ紹介します。

1.腕の優劣がモロに出る工程をすべて回避できる設計!

 プラモにつきものの表面処理、合わせ目消し、マスキング。表面に走るパーティングラインを探して丁寧にヤスリで落とし、パーツ同士を上手く接着してパテを盛ってヤスリをかけてキレイな面を出して……とやったパーツをこんどはビシーッと塗装して乾燥させてマスキングしてまたビシーッと部分塗装してまた乾燥させてクリアーコートして研ぎ出して……その他プラモにまつわる「上手い人はみんなやっとる……」みたいな工程の数々。

 「上手い人はできるかもしれないけどオレ上手くないし、上手くなったらそのうちやってみよう……。」とか言ってるとカーモデルは一生できない!どうすればいいか。タミヤのマクラーレンセナを買うのです。上記の作業が必要な場所がマジで一箇所もない。あー、ここがパーツ分割されてたら楽だな〜というところはことごとく分割されています。あー、ここ合わせ目消さなきゃいけないのか〜というところはちゃんと一体化されているか、完成後に見えないところに隠してあります。パーツのど真ん中を走るパーティングラインもないし、ランナーから切り離したゲートの跡がゴリゴリに目立つところもなし。

 「腕があってもなくても同じ仕上がりになるよ」なんて野暮なことは申しません。サバの水煮の骨を取り除いてあるやつね。料理する気になれない人はそのまま食べてもうまいし、シェフはサバの骨を抜く時間が浮いたのでひと手間加えてもっと旨い料理にしちゃう。そういうことです。腕があればやれることが増える。つまり「カーモデルにおいて『とりあえずやっておくべき』とされているわりと難しい作業」が最初から注意深く取り除かれているので、カーモデルに親しみのない人には安心を、カーモデルゴリゴリ作ってる人にはより奥深い作業の余地を与えることに成功しています。今回私が感じてもらいたいのは、この「安心」の部分です。

2.ボディ以外は塗装しなくても見栄えが素晴らしい!

 まずこのキットに限ったことではないんですが、タミヤのカーモデルやバイクモデルは「2色のプラスチックのおかげで、生で食べてもメカメカしい部分を味わえる」というのが嬉しい。説明書には実車に近い雰囲気に仕上げるためのこまかな塗り分け指示もありますが、プラスチックのままでも複雑に入り組んだ色とカタチを楽しむことができます。塗装しながらジワジワと出来上がっていく過程を楽しむか、中身の塗装をズバーンとスキップして全体のスタイリングを楽しむか、選択権はあくまでユーザーにあります。

▲まあ最近のスーパーカー、CFRPだし実際樹脂ですからね。樹脂でできているのがリアルなんですよ。
▲ちなみにシルバーのパーツは完成すると排気管以外ほぼ見えなくなります。塗装するかしないかはあなた次第!

3.ツヤのありなしがパーツ状態で再現されている!

 カーモデルでは黒の質感が超大事です。コートされてツヤツヤのところ(たとえば外装)、半分ツヤ消しになっているところ(カーボンむき出しのところやダッシュボード)、ガビガビのつや消し(シートやフロアマットなど)と、同じ黒でもツヤの差があると「おお、クルマらしいな!」という雰囲気が強くなります。なので、塗装図でも「ツヤありの黒」「半ツヤの黒」「ツヤ消しの黒」をそれぞれ所定の場所に塗りましょう、と書いてあります。

▲TS-14がツヤあり黒、TS-29が半ツヤの黒。黒いパーツにマスキングを駆使しながら黒を塗れ!しかもツヤを使い分けるのじゃ!という説明書。
▲こちらが該当パーツ。各部のツヤの調子をよーく見てください。

 タミヤの最近のカーモデルって、パーツの状態ですでに「ツヤあり」と「半ツヤ」が表現されているんです。これはカーモデルを塗ったことのない人にも安心。塗らなくてもツルツルなところはツルツル、しっとりしたところはしっとり……というのが最初から用意されているんですから、「貼るだけモデリング」でも見た目の情報量が倍なんじゃよ。エライなぁ。ちなみに私はプラスチックのツヤあり黒よりキレイに塗装できる気がしないしマスキングして黒の上に黒を塗る時間で次のプラモ作りたかったので今回は黒いパーツとシルバーのパーツはすべて生のまま接着して完成としました。超かっこいいです。

4.窓ガラス、絶対に曇らせずに固定できます!

 カーモデルの難しいポイントのひとつに窓があります。クリアーパーツは接着剤が付くと曇ってしまったり、フチの部分を黒く塗る必要があったりと扱いに気を使う必要があります。これまでにもいろんなメーカーが「ノリシロを大きく取る」「カット済みのマスキングシートを入れておく」などのソリューションを考えてきましたが、このマクラーレンセナはマジですごい。すべてのクリアーパーツが接着剤を使わずに固定できるように設計されているのです。しかもスナップフィットじゃなく、もっともっとエレガントで確実な方法で……。

▲すべての窓ガラスのパーツの端っこに小さな突起が設けられているのがわかるかな?
▲窓ガラスは接着しなくていいよ!の印が心強すぎる!

 何が起きているかと言うと、小さな突起の付いた窓ガラスのパーツは所定の位置に置くだけ。後から各窓の周囲にあるパーツをピタッと接着すれば窓ガラスが固定されるのです。「結局接着剤使うんじゃん!」と嘆くことなかれ。周囲のパーツには「ここに接着剤塗ればガラスを汚すこともなくちゃんと固定されまっせ」と言わんばかりの目印が必ず用意されています。実際に組むと分かるけど「いますぐこの世のカーモデル全部これにしといてくれませんか!?」って叫びたくなるほど便利。そーっと窓ガラスを汚さないように貼ったり、力がかかってパキッと外れたり、周りのフチをうまいこと塗装したり……という悩みがすべて解消されています。

▲窓ガラスは所定の位置に置くだけ。黒いパーツの真ん中にちょいちょいと接着剤を塗ってポンと置けば、窓ガラスも固定される!

 透明パーツのフチだけを黒くしたい時はマッキーやタミヤのペイントマーカーをツーっと走らせればOK。あとはボディのフレームに置いて窓枠に相当するパーツをビシバシ貼っていけば透明パーツをマスキングしなくても、接着剤が流れて台無しになる恐怖に怯えなくても、自分史上最高にキレイな窓を持つカーモデルが出来上がります。これホント。

▲ガラスに一点の曇りもないカーモデル、初めて完成したかもしれない……。

5.すべてのパーツの「ノリシロ」が神レベルの優しさでおもてなし!

 このキットで声を大にしてお伝えしたい最大の革命的ポイントがこれ。ありとあらゆるパーツの位置や角度がビタッと決まり、「接着剤をここに塗ればしっかりと接着面積を確保できますよ!しかも接着剤がありえんところにはみ出したりしませんよ!」というノリシロがしっかり用意されているのです。これはもう、試合開始からゲームセットまでずーーーーーーーっと「いやー!ありがたいな!」「えー!ここもマッサージしてくれるんですか?」「え、サービスのもやしナムル?」みたいな感じで無限に続くのです。本当にすごいぞ。

▲リアのグリルのめちゃ複雑な合わせ目ラインにも広大な3枚の板が出ていて、ビシッと貼れます。
▲本当にすべてのパーツに「ここに接着剤付けてね」っていう目印がくっついてるので、探しながら組むべし!

 シャシーやエンジンと言った実物の構造がわりと強固な部分(当然実車でもそれぞれのパーツががっちりと組み合わさるよう設計されているからプラモ的にもがっちり組み合わせやすい)はともかく、ボディは色分けとアウトラインを再現するために2重〜3重にパーツが折り重なった部分もたくさんあります。で、バラバラに分割された薄いパーツで構成されたプラモというのは漫然と貼り合わせていくと「あれ、なんかアウトラインがつながらないな……」ということもしばしば。

 しかしこのマクラーレンセナ、別に仮組みなどしなくてもノリシロが大きく確実に位置決めできるよう設計されているので、思ってもいないところで「え、さっきのパーツがここのラインに繋がるんですか!?」みたいな現象が起きます。しかもものすごい精度なので、パーツ数がとても多い(カーモデルのボディなんてワンパーツでドーンと成形されていることもあるしね)ことを忘れてゴリゴリ作業が進むのです。

▲ボディ内側を見ると比較的とんでもない分割なのですが、一箇所も歪むことなくビターっとカタチが決まります。

6.「好きな色に染めていいんだよ……」な白いパーツの包容力

 完成後にほぼ見えなくなるシャシー周りとボディのフレームが黒とシルバーのプラスチックになっているというのは先述のとおりですが、このキットは「ここ塗るとかっこよくなりますよ」というのを白いパーツで表現しています。ボディとアクセントカラーと内装の一部。これがまた素晴らしい。

▲ボディ。ここは貴方の好きな色で全体をゴーンと一色で塗ってしまいましょう。
▲ブレーキキャリパーとフロントエアロフィン。実車ではアクセントカラーになっています。ここもまとめて塗装してOK
▲シートのクッション。つや消し黒でもOKだし、アクセントカラーにしてもよし。好きに塗ろう。
▲この写真ではボディの青とブレーキの黄色、シートとハンドルの黒以外は塗っていないのじゃ。

 白いランナーと塗装図を事前に突き合わせておくと、完成したときの色の組み合わせは一目瞭然。まとめて塗装できるように配置もバッチリ考えてありますから、パーツを切り離して整えて何色に塗るか仮組みしながら考えて……という必要はありません。区画ごとにランナーごと塗装してもかっこいいマクラーレンセナが爆誕します。

 なによりブレーキディスクとキャリパーが別パーツになっているのも最高(ほとんどのカーモデルでディスクとキャリパーは一体になっています)。マスキングしなくても塗り分けが完了するし、おまけに「タイヤを回すとディスクも回る」という副次的な可動ギミックも実現しています。

▲ディスクとキャリパーが別パーツなので……
▲キャリパーだけ黄色く塗った後に合体すればブレーキがリアル!あとエアコンの吹出口にシルバーのリングが用意されてるのもGOODです。

「カーモデル初体験!でもオリジナリティ出したい!」というアナタに……

 黒と銀のパーツはそのまま、白いところだけを自分の好きな色で塗って、あとは組むだけ!というカーモデルの楽しい遊び方をさらに上のステージに押し上げたタミヤの意欲作。腕に覚えのある人ならば細部のディテールアップや全塗装によるさらなる質感表現も可能だと思いますが、「カーモデルは初体験」という人にもカーモデル製作の醍醐味を味わわせてくれる素晴らしい仕様になっています。

 確かに一般的なカーモデルよりもパーツ数は多く、複雑な分割にちょっと戸惑いを覚えるかもしれません。しかし組んでみればその意味が必ずわかります。指先から「失敗しないようにしといたぜ!」という設計マンの気持ちがビリビリと伝わってきます。エンジンの塗装を頑張ってみよう、ボディの塗装を頑張ってみよう、内装の質感をちょっとリアルにしてみよう……というちょっとしたチャレンジにも応えてくれますし、「缶スプレー1本で始めるプラモデル」としても素晴らしい出来栄えになってくれます。

 プラモ作りにおける最大のストッパーは「やりたいことが実際にできるかどうかわからない」という不安な気持ち。「面倒なこと、失敗しそうなこと」にトライし、乗り越えたときの達成感も間違いなくあるのですが、このマクラーレンセナのような奇跡的なおもてなしキットに「全乗っかり」する喜びもまた、素晴らしい体験です。道迷いの恐れや胸を突くような急坂はないけれど、一歩一歩を踏みしめる充足感のあとに、爽快な疲労感と美しい景色が山頂で待っています。

 みなさんも、ぜひ。

<em><a href="/author/kalapattar/">からぱた<br></a></em><a rel="noreferrer noopener" href="https://twitter.com/kalapattar" target="_blank">@kalapattar</a>
からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。