それはまるで旨いメシ屋をめぐるが如く。/プラモが最高の贅沢だと思うワケ

 ラーメン、牛丼、カレー。みんなそれぞれ「好きな食べ物」ってのがある。どれもそんなに高額なものじゃないから気軽に食べ歩きをして、「このお店はこんな味なんだな」とか、「このお店は雰囲気も含めて好きだな」なんて考える。誰もがプチ評論家だ。いちばん好きなお店に通い詰める人もいるし、もっと違う味を求めて新規開拓を続ける人もいるだろうけど、たとえばあなたがオススメするラーメンのランキングとか、カレーのランキングというのは案外簡単に出てくるはずだ。

 これが自動車とかになるとちょっと変わってくる。ほとんどの人にとってはホイホイ買い換えられるもんじゃないから、生涯で所有できるクルマの数なんてたかが知れてるし、これを比較して評論して……というのはちょっと難しい。まして飛行機や戦車だったら、おそらく一度も手にすることがない人のほうが圧倒的に多いだろう。

 プラモデルのすごいところは、ラーメンや牛丼やカレーと同じくらいの値段でも買えるものがいっぱいあって、しかも世界中の自動車や飛行機や戦車のカタチを記憶して、比較して、評論できるところにある。もちろん自動車の乗り味や飛行機の軽快さ、戦車の強さを体感することはできないけれど、その形状や色、どこでどんな活躍をしたものかくらいは知識として吸収することができるのだ。

 いろんな飛行機のプラモを食べ歩くと、「この飛行機はこんなカタチなんだな」とか、「この飛行機は色がいいな」なんて考えられるようになる。そのうちに、プラモデルのもっとすごいところに気がつく。ひとつの飛行機を、いろんな会社がプラモにしているのだ。上の写真はハセガワの1/72 P-51マスタング。軽快そうな薄い金属板の集合体を、神経質にも感じられる細い線で表現している。パネルを止めているリベットやファスナーはスケール感を大事にしてごくごく小さく、浅く彫刻されている。

 こちらはタミヤの1/72 P-51マスタングだ。同じ飛行機を、同じ縮尺で、違う会社が作っている。P-51には「ホンモノ」があるのだから、ハセガワが作ろうがタミヤが作ろうが、同じカタチになるのが道理だと思うかもしれない。しかし、プラスチックの灰色が少し濃いだけで、箱を開けたときの印象はガラリと変わる。ハリのある曲面と、少し強調されたパネルライン、そして「オレはここにいるぞ」と声を上げているかのようなリベットとファスナー。

 ラーメンや牛丼やカレーが胃の中に入ってしまえば等しく栄養になってしまうのと同じように、ふたつのプラモは組んでしまえばどちらもマスタングになる。銀色に塗って、デカールを貼って、1mも離れてしまえばほとんど違いはわからないだろう。しかし、箱のサイズやデザインに始まり、パーツの色や分割、どれくらいの速度で組み上がるのかは食べ歩きをしてみなければわからない。その違いはそのままメーカーのフィロソフィーであり、食べ物に例えるならば味の違いであり、お店の雰囲気や器の違いと同じように受け止め、だれもが語れる。

こんなにも安く、世界中の知らないモチーフに触れながら、それをどう捉えてどんなプラモデルにしたのかを比べられるというのは驚くほかない。人がふたりいれば同じ景色を見ていても違う絵を描くように、プラモデルも千差万別。ひとつのモノを巡って、あの国、この国、あの時代、この時代の人の考え方がいろんなカタチで製品になっている。いまふたつのマスタングを見比べながら、「こんなに贅沢な趣味はほかにない」と改めて思うのだ。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。