あの日見た「リアルタイプ」の中身を僕達はまだ知らない。

 2020年、夏。横浜に実物大の動くガンダムを建造中だという。

 そんななか、模型店の棚には40年前に売られていたオールドスクールなガンプラが並んでいて、なんだか不思議な気分になる。そういう古いガンプラは「旧キット」と呼ばれ、たまに再生産されるとガンプラファンがワッと飛びつく。当時と同じ値段で売られているから安い割にカサがあり、最新ガンプラと比べると改造やブラッシュアップの余地もいっぱいあるから、いまだに人気があるのだ。

 友達と飲みに行く約束をして、家電量販店の模型コーナーを待ち合わせ場所にする。中高時代の同級生がいろいろと物色している横で、オレはこの「リアルタイプ ガンキャノン」というのを手に取った。定価税別700円。実売価格は昼飯代を割り込んでいる。

 「昔から模型屋で見るけど、買ったことなかったんだよな」と、居酒屋で箱の横をまじまじと見る。「カラーガイド」というのが印刷されていて、アニメに出てきた真っ赤なガンキャノンとは一味違う、ガンメタリックとグレーと彩度明度ともに低くアレンジされた赤で塗り分けられた写真が目に入る。金属や航空機の暗喩としての色をまとったガンキャノンは、なんだか強そうだ。

 「砂漠はまだわかるけど、海戦用というのはどういうことなんだろうな。ガンキャノンがまさか海中で戦うわけじゃなかろうし」「まあ、ここで言ってるのはリアルかどうかよりも、”リアリティ”だよな」なんて言いながら、もつ焼きをビールで流し込む。

 「リアルタイプとは……」という説明が奮っている。オレたちは試されているのだ。ひと通りの塗装例があり、お仕着せの塗装図が封入されているが、バンダイは「あなたのセンスであなただけのモビルスーツを創れ」と挑発してくる。

 このリアルタイプシリーズの企画が「劇中登場メカのほとんどが製品化され尽くした状態にあってなお、ひたすら色替えで商品を出し続けざるを得ないほどガンプラの需要があった」という事情によるものであることはいろいろなところで述べられているとおり。「リアルってなんだ?色が渋けりゃリアルだってか?」みたいな難癖をつけない程度にオトナになったオレたちは、ビールのおかわりを頼む。

 成型色が抜群にカッコいい。微妙にメタリックな黒に近いグレー、海老茶に近い赤、そして上品な飛行機模型を思わせる薄いグレー。この上に、オレの考えた色を塗れと言うのか……。ちょっと絶句する。だって、この3色のハーモニーを見てなお「オレのセンス」をここに上乗せしなきゃいけないんでしょう?

 「お前がよく言うように、そのまま貼って”完成”でもいいじゃない。成型色がかっこいいと思うならさ」「いやでも、ここまで『塗りのセンスを発揮しろ』って明文化してるプラモ、そうそうないよ。これは塗らないとダウトなんじゃないかなぁ。しかも、砂漠でも海戦でもない、どこか知らない戦場を思い浮かべながら」と、こんどはウーロンハイを飲む。

 デカールだって、まるでミリタリーモデルのそれだ。どこに貼るかは「好みに応じて自由に」とまで説明書には書いてある。戦車や戦闘機の持つリアリティと戦車模型や戦闘機模型の作法を援用して、モビルスーツという架空のロボットをリアルに見せようとする遊び。「お前のセンスで、どうにかしてこれをリアルにしてみせてくれ」という挑戦状が、このリアルタイプシリーズなのだ。

 2020年、夏。横浜に実物大の動くガンダムを建造中だという。

 いま、オレの机の上では「リアル」とハッキリ書かれた箱の中で、ド渋い色のガンキャノンのパーツが建造を待っている。このプラモをそのまま接着剤で貼って「こんなプラモが売られているのだ」と納得するか、「オレの思うリアルってなんだろう」と思い悩みながら塗るか、結論はまだ出ていない。

 ガンダムのリアルさとはなにか。

 ひさびさにガンプラに問い詰められている感じがして、少し楽しい。

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からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。