ドカーン!エヴァンゲリオン初号機と500系新幹線というカレーとハンバーグが一緒に出てきちゃったような最強のロボ、「シンカリオン 500 TYPE EVA」だよ。かっこいい。組んでて「うわー!かっこいいな!」という偏差値が0.5くらいの発言が出てしまうので、これはもうみんな組んだほうがいい。
どこがどうかっこいいかというと、シールがすごい。シール?塗装派のオレには関係ないぜ……とハードボイルドぶっても無駄だぜ。この複雑怪奇な模様はプラスチックの色と、工場で一部が塗装された状態と、そしてけっこう大量のシールによって実現する。それがいちばん速いし、そういうふうに設計されているので、そのように味わうのがいちばん美味いと断言しちゃおう。
薄くて発色良く、曲面にもよく馴染む不思議な素材のシールはちゃんとカットラインがプラモのディテールとビシッと合っていて、いいピンセットでスッと摘んでピッと貼るとこれがめっぽう快感なのだ。デカールを貼るのとはまた違う、バキッとした発色の複雑なものが、待つ時間ゼロでどんどこどんどこ目の前に出現していく過程がいいんだよ。
で、シールをよく見ると真ん中に黒い仕切り線がある。上がAグループ、下がBグループとなっている。説明書から引用すると、「Aグループのシールを貼れば、機体イメージをほぼ再現できます。さらにこだわって詳細部分を再現したい場合、Bグループのシールを貼ってみましょう」と書いてあるんだ。Aが簡単でBが難しいのかというと、さにあらず。Aは「前からドーンと写真を撮ったときに見えそうなところ」Bは「裏返したり背中から見たりしなければ、そんなに気にならんところ」なのだ。
プラモというのはそもそも手間のかかる遊び。突き詰めればひとつのプラモで無限に遊んでいられるくらい「やれること」が多い。しかし、同時にそれらの作業は「やらなくてもいいこと」でもある。これを決めるのは自分だ。常に自分がやりたいことをやるのが趣味。チャレンジしてみてもいいし。肩の力を抜いてその日にやりたいことだけやるのだって、誰にも咎められるいわれはない。
だけど、せっかく用意されていること、頭に一度入ってしまって「あたりまえ」になってしまった作業をあえて「やらない」という選択をするのはけっこう怖い。やれたのにやらなかった自分が、なんだか後ろめたく感じるのかもしれないね。でも、こうして「シールいっぱい入ってるけど、ここまででだいたいOK、この先は好みでどうぞ!」というのを他人に言ってもらうと、一気に楽になると感じた。
よくプラモの説明書に書いてある「シールを貼ろう!」の次が「塗装派はここに書いてある塗料を自分で調合してマスキングして塗装して墨入れしてウェザリングしてトップコート吹いて地面くっつけて周りの建物も買ってきて君だけの最強のプラモを作ろう!!」みたいになってしまうと、しんどい。難易度とか作業の量とかじゃなくて、「君はどんな姿が見たいんだ?」という姿勢で寄り添ってくれるのが、このプラモのすごくいいところだなと感じた。
当然、このプラモだって「ああ、ここは自分で塗装したほうがいいかもな」と思う部分もある。しかしこれだって一度組んでみないとわからない。組んでみて、もう一度買ってきてでも塗りたい!と思えるならもう一個買ってくるか、一度組んだのをバラして塗ればいいし、「組んだら全然満足しちゃったな!」と思えば次のプラモに行けばいい。後悔しない、前だけ見て、結果と経験値をちょっとずつ蓄積していけば、いつか「これは効果が薄いからやらない!」「これはちょっと手間だけど、絶対に見栄えがよくなるからやろう!」というのが自分でジャッジできるようになるはずだ。
組み立ての過程でも「あえて装備と一体化した拳」とか、「切り飛ばしてしまうと困るところは必ず説明書に注意書きが入っている」とか、「シールの番号がちゃんと頭〜脚の順番に振ってあるので何番のシールがどこに貼られるのかほとんど迷わなくてすむ」といった配慮にいちいち感激した。
「いいプラモ」というのには完成度が高いとか、よく動くとか、色分けしてあるとか、いろいろな尺度があるだろう。しかし、こうして組んでみると「ここが親切だったな!」とか「そうやって説明してくれるとわかりやすいな!」と思える場所が必ずどこかにあるはずだ。「オレは慣れてるからここが不親切なのも平気だけどね」と黙っていると、世界は変わらない。
プラモを組んだら、「ここが良かったぜ!」と褒めるようにしよう。そうすうと色んな人がいろんなところを褒めるようになる。回り回って、その親切ポイントを取り入れたプラモが新しく作られるようになる。アナタも新しいプラモに親切ポイントを見つけて嬉しくなるし、はじめて作る人には精一杯親切なプラモをオススメしたくなるはずだ。プラモの仲間を増やしたければ、イケてるプラモのイケてるポイント(それは完成後の外観だけじゃない。説明書に、シールに、パッケージに、ちょっとしたパーツのハメ合わせの妙に潜んでいる)を褒める。これが、オレが500 TYPE EVAを組むことで受け取ったメッセージだ。
みんなも嬉しいことがあったらその写真を撮って、僕たちに教えてほしい。
ぜひ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。