プラモの楽しいところのひとつに「本物みたい!」という驚きを作り出せる、という点が挙げられます。小さくなっているのに、手で作ったのに、本物みたいに見える。これはプラモを作っている人がかけられる褒め言葉のなかでもかなり嬉しい部類。そうなると「本物はどうなっているのか?」と観察したくなるのが人情ってもんです。

たとえば「アメリカの航空母艦の本物」がどうだったか知りたいとなると、こうした資料写真集を眺めたくなります。表紙こそカラーですが、内容のほとんどがモノクロページ。よくよく見ると、だいたいが甲板の上で兵士や従軍カメラマンがペシペシ撮影したスナップか、飛行機から撮影した空母の俯瞰写真ばかり。私達がプラモを組み立てて眺めるときのようなアングルの写真というのはとても珍しいということに気付かされます。自分がギューッと1/700とか1/350スケールに縮んだときに、空母はこう見えるのか……ということは理解できても、じゃあそれをプラモでそのまま表現できますか?と言われたら、私は全く自信がない。
そこで、「こんどは気分転換に艦船プラモでも作ってみようかな」という気持ちでこれを眺め直してみましょう。空母の上ではいろんなドラマが起きています。硬いのか、柔らかいのか、分厚いのか、案外薄いのか、人と対比してどれくらいの大きさなのか……読み取れることがぐんぐん増えてきます。

当然それぞれの写真には時と場所、撮影対象物とその時点における特記事項といったキャプションが付されています。これらは興味深い情報ですし、それをたくさん蓄積して自分なりにデータベース化するという学術的傾向を持った楽しみもあります(それを生かして考証的に正しいプラモを作るというのはさらに複合的な遊びです)。ここでひとつ言えることは、「写真を見たらそれを精緻に再現しなければいけない」ということではなく、「そうではない写真の眺めかたをしていても大丈夫」ということです。
整然と居並ぶ艦載機の群れ、勇壮に発艦していくそれらを眺めるデッキクルーたち、つかの間訪れるリラックスしたムード……。ときには敵襲により黒煙立ち込めるなか発艦作業を急ぐ甲板があり、着艦に失敗た拍子にでんぐり返しを演じ、かろうじて海没を免れた艦載機を見ようと群がる兵士たちの姿があります。

ただ空母のプラモを買ってきて、説明書が教えるとおりにパーツを貼っていく作業も楽しいものです。しかし、こうした資料写真を見てから組むのと、まっさらな状態で組むのとでは楽しみの大きさが違います。艦載機の周りに人の気配を感じたり、敵に襲われる緊迫感を纏っていたり、静かな水面をおだやかに航行するリラックスした時間を過ごしていたり、状況はさまざま。これをイメージして組むプラモとそうでないプラモでは、あなたの思い入れも異なるはずです。
資料の持つイメージを自分に置き換えて、その気分を指先に込めながらその日の楽しみをブーストする。資料を集め、比較し、史学的発見をもとに体系化された知を構築する。そのどちらにも応えてくれるのが資料写真のおもしろいところです。資料を見て手が止まってしまうのは、「とにかくプラモをたくさん作りたい!」という人にとって、すごくもったいないことです。ひとりの人間でも、その時の興味、やりたいこと、知的好奇心はブレブレなのが当たり前。身構えるのも、身構えないのも自由です。その時その時の自分と会話をして、写真が持っているパワーを自分の模型を作るモチベーションに繋げられればナイスですよね。
■モデルアート アメリカの航空母艦資料写真集1920s-1945 2020年 04 月号 艦船模型スペシャル 別冊