
パーツを切り離してパチパチと嵌めていくだけで、実際に走行し、変速し、ステアリングが切れてサスペンションが作動し、透明なV8エンジンのなかで黄金のピストンがせわしなく上下する……。昨年発売されたプラモデルの中でもいちばんの思い出になったのがエレキットの「レトロフォーミュラ」です。このnippperでもいちど紹介しているのですが、あまりにも面白い体験だったのでいまいちど皆さんにその存在をお伝えしたい。まだ手に入れていない人は、この機会を逃さないよう強くオススメする次第なのです。
233パーツからなるこのキットとの出会いは、プラスチックで表現された美しいメタリックカラーのきらめきによって彩られます。外装、内部メカ、フレームはそれぞれの枠にまとめられていて、派手なゴールドとシルバーの駆動系、それを力強く支持するガンメタのフレームとホイール、そして完成時の印象を決定づけるメタリックブルーは玩具的な派手さというよりも極めて洒脱な、調和の取れた色調でまとめられています。表面を不定形に走るウェルド(プラスチックが金型のなかで冷え固まるときにできる紋様)すらも美しい!

前進4速、後進1速の複雑な走行ギミックを搭載している……と書くと、その精度や耐摩耗性を確保するためにプラスチック以外の素材が多用されているのではないかと思うかもしれません。しかし、本アイテムで使用される金属シャフトはわずかに3本。サスペンションを作動させるスプリングや電池〜モーター周りの配線を除けば、あとは本当にプラスチック同士の嵌め合わせだけでその精緻な機構を実現しています。パーツ同士のクリアランスの管理というのは設計〜金型〜製造でそれぞれ公差があり、ちょっとやそっとでは狙い通りの数値になりません。そこんところをビシーっと動作するように整合させているのは過去のノウハウと現場の努力があるからこそ。痺れるぜ……。

金型大好き人間としてもうひとつ強調しておきたいのが、ランナーに対して異様に高い密度でパーツが配置されていること。手元にプラモデルがあれば見比べてほしいのですが、これほどまでにランナー(パーツを保持する枠)とパーツが接近していて、さらにひとつの区画に複数のパーツがこれほどたくさん並んでいるプラモデルというのはそうそうありません。
パーツの設計/製造精度が高いのはもちろん、単位面積あたりにどれだけのパーツを並べられるかを攻めに攻められる金型の設計/加工のレベルも非常に高いことがうかがえます(=金型の加工難度と耐久性、製造コストとのせめぎあいがここにあるのだ)。完成すれば忘れ去られてしまう景色ではあるのですが、このキットを手にしたら作り始める前にこの状態をぜひとも目に焼き付けてください。

透明のシリンダーのなかで規則正しく上下に動く金色のピストンは、コンロッドを介してシルバーのフラットプレーンクランクシャフトを掴んでいます。左側にあるギアが駆動系のシャフトから動力をもらってあくまでも受動的にエンジンが「回される」というギミックなのですが、しかしかなりファジーに思える取り付けでもシリンダーは筒内でひっかかることなくサラサラと動きます。ここも各部のクリアランス(回転運動と上下運動で要求精度が違うはずですよね)の圧倒的調整力によって「確実に組めて確実に動く」を実現しています。

左右のタイヤの角速度の差を吸収するデフギア。こんなにラフに組めるのに要求どおりの動作をするのは歯車のバックラッシュの設定も含めて異様ですよ。電動RCカーを組んだことがある人ならわかると思いますが、軸の精度、ギアの噛み合わせ、強度、オイル……みたいなシビアな条件の幕の内弁当みたいな仕組みですからねもともとデフギアってのは……。これが世に言う「ハメパチ」でサクッと味わえるのがとても不思議で楽しい。

リアアクスルの真ん中にデフが鎮座し、平行等長のダブルウィッシュボーンが車体側とハブを繋いでいます。ユニバーサルジョイントのように動くドッグボーンを介してカップジョイントの回転がホイールへと伝わるので、サスペンションの動きに追従して動力が伝達される……という仕組み。左右のタイヤの回転差、地面の凹凸、コーナリング時の沈み込みにそれぞれ対応しながら走り続ける仕組みが体感できます。ネジや接着剤を使わずに……!

これだけ小さくて軽くてゆっくり走る模型のクルマですから、正直サスペンションがなくたって走ります(例えばミニ四駆は左右ホイールを金属シャフトでガッチリ繋いでいます)。しかし、このキットは良い走りをするための仕掛けを工夫する遊びではなく、実物の原理を知るための「機構のミニチュア」です。上から指で押すと車体が沈み込むわけですが、それに応じて透明な筒のなかに金属製のばねを仕込んだサスペンションが伸び縮みして、ダブルウィッシュボーンやドッグボーンもグニグニと角度が変わる……というのをこの模型を通じて初めて理解する人も多いはずです。

説明書にはこうしたクルマの駆動原理についての解説もいろいろと書かれていますが、実際に記載がなくとも再現されていることがいくつかあります。たとえばハンドルを回したときに前輪の右と左で切れ角が異なるアッカーマンジオメトリ。自動車が旋回するとき、内側のタイヤよりも外側のタイヤのほうが旋回中心よりも遠い円弧の上を走ることになります。そこで車体と前輪を繋ぐナックルロッドとタイロッドのリンク位置と長さ工夫し、内側のタイヤがより深く曲がるようにする……という仕組み。これも低速で走る小さな模型では走行性能にほとんど影響を及ぼしませんが、実際に真上からみるとちゃーんと再現されているのです。

機構のことばかりを書いていますが、これだけの動くギミックをしっかりと支えるフレームの頑丈さもまた重要なファクターです。ガンメタのパーツに機構部を組み付け、要所ではふたつ以上のパーツを結合するためのロック機構を備えたピンが用意されています。これも樹脂同士のハメ合わせで機能しますが、ユルすぎても固すぎても機能しません。昔ながらの接着式模型で走行ギミックがうまく機能しなかった悔しい思い出を持っている人ならば、こうした芸当がいかにスゴいものかがわかるはず!

あまりにもスムーズに組み上がり、さも当然のように動く。構造は複雑でも、組み立て工程自体は決して難解ではありません。この「スムーズにできる」という体験をもたらしているのは、設計と製造が素晴らしい証拠。教具教材としての模型はさまざまなスキルレベルのユーザーが異なる環境、指導者のもとで組み立てるものですから、ここに至るまでに気の遠くなるような試行錯誤があり、ノウハウの蓄積があったはずです。

こうした解説を読んだあとで、改めて紹介動画を見てみましょう。組み立ての概要や実際の走りがどんなものかイメージできるはずです。
電池は車体の左右に単4型を1本ずつ搭載する方式。数少ない金属パーツは先述した金属シャフトのほかに、電池ボックスの金具とフタを固定するためのビスがセットされています。説明書のパーツリストにビスが記載されていますが、電池フタにあらかじめハメ込まれた状態でパッケージングされているので要注意(ビスだけを探して慌てたのは私だけじゃないはず)。豆知識ですが、脱落防止ネジはEC加盟国に輸出または流通する商品に必要なCEマークを取得するのに必要な措置なんだとか。

メタリックブルーとゴールドの車体にたまたまダイソーの電池がバッチリのカラーコーディネートになってくれます。PanasonicのEVOLTAも似合いそうだな……。ふつう電動玩具にどんなブランドの電池を入れるかなんてあまり考えませんが、全体のデザインがあまりにも良いとこういうところでも脳の回路が働いてしまうよね……。

変速、操向、懸架、緩衝をはじめとした自動車のさまざまな仕組みを、小さな模型で再現する。そこにはギアの確実な噛み合わせ、シャフトと軸受けの位置決めとスムーズな回転の両立、そして接着剤を使わずとも機構部が撓んで動作を妨げないだけの剛性の確保と、クリアしなければいけない要件は数え切れないほどあります。これが誰でもスムーズに組み立てられ、確実に動作する。しかも見た目がカッコいい。いまいちど、全力でオススメしたい満点の模型です。みなさんも、ぜひ!