
孫と旅行がしたいという両親の願いを叶えるために鬼怒川へ行った。宿泊するホテルは押さえたけど、それ以外はいっさいノープラン。鬼怒川といえば……ミニチュア天国、東武ワールドスクウェアである。すべてが1/25の縮尺で作られた古今東西の建築物の模型があるということは知っていたが、実際に足を運んで度肝を抜かれた。そのコンセプト、規模、クオリティのすべてが想像を絶する世界だった。

このテーマパークを誰がどう思いつき、いかにして作られ、これまでどのように維持され、発展してきたのかについてはWikipediaに懇切丁寧に書かれているのでここでは省くが、現物に忠実な建物、そこを行き交う人々、そして走り回る自動車や鉄道の織り成すさまは、見ずに死んだらもったいないと断言したくなるほど驚異的な眺めである。統一された縮尺によってヴェルサイユ宮殿の異常な大きさやスフィンクスの意外な小ささが体感できるのはもちろん、人間の手によって作られた模型に太陽光や雨風といった本物の要素が付加され、言葉にしがたいリアルさが見るものの見当識を狂わせる。

開園以来ただひたすら風雨にさらされてたのならば、展示物はすべて色褪せ、破損も免れないはずだ。しかし常駐するスタッフによって再塗装をはじめとしたメンテナンスや改修は定期的に行われており、また新たな建造物もさかんに追加されている。
そしてなにより驚いたのが、建物に付随する植栽がすべて「生きた木」であったこと。1/25スケールの樹木や植え込みに見えるよう枝ぶりはコントロールされ、生い茂る葉はきれいに刈り込まれている。建物のリアリティと釣り合う木のリアリティは、つまるところ無数の盆栽を植えて維持し続ける努力によって成し遂げられているのである。

圧倒的な物量と酷暑のせいで呆然としつつ、しかしここに来たからにはひとつの疑問を解消する必要があった。東武ワールドスクウェアの構成物はどうして「1/25」という縮尺で貫かれているのか。プラモデルを活用するのであれば1/24であっても良かったのではないか。インフォメーションカウンターに座る女性スタッフに少々不躾な質問を投げかけると、事務所の中からもう一人の女性スタッフが現れて「そういうことならばあちらのヒストリウム(歴史資料館)をご覧になってください」と誘導してくれた。

ヒストリウムの入口正面には、1/160スケールのサグラダ・ファミリアが鎮座していた。この模型は1988年3月、東武ワールドスクウェアの構想をプレゼンテーションするために東武鉄道の常務会に示されたもので、横にはそのとき同時に作られた1/300のコロッセオも保存されている。プロジェクトにゴーサインが出され、各国の政府や建造物の権利者、設計者に施設の理念を説明し、許諾を取り、実物の取材が進められた。

壁際のガラスケースに収められた図面を見て、私は息を呑んだ。このテーマパークの模型製作を依頼されたのは、映画セットやテーマパークの造形・装飾を手掛けるスペシャリストである東宝映像美術だったのだ。ゴジラやウルトラマンといった特撮作品で用いられるミニチュアでは建築模型の文脈から生まれた1/25や1/50といったスケールが多用されるが、建物だけでなく人物や道路といった付帯物と合わさったときの見応えを考えて最終的に1/25スケールが採用されたのだという。

こうしたエピソードを携えて再度写真を見ると、ただ精密な建築模型を作ってそこに置くだけでなく、同縮尺の道路や自動車といった対比物がそれを取り囲み、人々が行き交い、ナマの植物たちがそこに彩りを添えるという複合芸術っぷりに改めて感嘆する。慣れ親しんだ「ジオラマ」という4文字には到底押し込めないほど壮大な模型の総合格闘技を、あなたもぜひその目で堪能してほしい。