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いつだって「ロボットのリアル」は胸像が教えてくれた/PLAMAXのアルフォンスが改めて示す『機動警察パトレイバー』のリアリティ。

 マックスファクトリーの「1/20 泉野明 with アルフォンス」がオレの原体験を一気にフラッシュバックさせる。そうだった。俺は胸像生まれリアルロボット育ち。生まれて初めて見た模型専門誌の別冊は『ガンダム・センチネル』で、あたかもそこにめちゃくちゃデカいロボット(1/20 Sガンダム胸像)が本当にいるんじゃないかという表紙の胸像を見て衝撃を受けた。

 遡れば、同じ『月刊モデルグラフィックス』の別冊『プロジェクトZ』や『ミッションZZ』も同じようにガンダムのデカい胸像を表紙にしていたし、『電撃ホビーマガジン』の創刊号をはじめ、模型に関連するメディアというのは”ここぞ”というときにスペシャルなビジュアルとして「大スケールの胸像」を提示してきた。



 

 ビジュアルイメージとして新しい何かを示すために作られるクローズアップモデル……すなわち、「ロボットプラモの胸像」は、そもそもサイズが大きくなければいけない。全身が再現されたフツウのロボットモデルの胸から上だけを作っても、「すでにあるロボットプラモの一部分」だ。ディテールアップすればそれ以上の表現ができるかもしれないけど、例えばカメラのレンズに収まったときのパースや人間の手が可能な工作精度といったものを考えれば「パース感や細部のディテールと、それに由来する”リアル”な説得力」というのは大サイズだからこそ感じられるものに違いない。

 PLAMAXが展開する「機首コレ」でアルフォンスが組める。商品名のアタマに「泉野明」が来ているとおり、なるほどこれは1/20のフィギュアありきで算出されたイングラムの部分的立体化(=全身像では巨大になりすぎることからきた選択)であり、ハナから「模型誌別冊の表紙モデルに耐える何かを作ろう」と考えたわけではない。しかし、そのサイズゆえにパーツの端面はごくシャープに感じられ、グラマラスに変化する曲面は小スケールモデルのそれとはまったく異なる説得力──すなわちスジ彫りの追加に頼らない”情報量”を持っている。

 大スケールだから細密な模型でなければいけない、と誰かが決めたわけではないように、本作はパーツ分割自体どこも大ぶりであって、たとえば実機があるならそこに備わっていてほしい緻密なギミックを大量のパーツで”再現”するタイプのプラモデルではない。

 巨大でギミックフルで組み立てに手間のかかるものほどありがたい、という話をするならこのアルフォンスは評価に値しないだろうが、しかしシーリングのシワとそれを固定するための金属フレーム、一体成型ながらあるべきところにきちんと収まるシリンダーやウネる配管の類はしっかりとメカとしての説得力をもって組む者に訴えかけてくる。

 こうして写真に撮られ画面に収まり相対化してしまうと、パーツの寸法がどれほどのものなのか伝わらないのはあたりまえ。しかし組んでいるときに感じる圧倒的な存在感はユーザーにとって絶対的な価値を持つ。アニメの設定以上のアレンジをことさら加えることなく、イラストにあるメカと分割線を極力重んじながら量感と曲率を追い求めた造形は、ロボットを”リアル”に見せるための方法論が「見た目をリッチにするためにディテールを増やす」というものだけではないことを教えてくれる。

 イングラムはキャラクターであり、メカであり、木偶であり、頼れる相棒である。つまるところ、イングラムはもともとリアルロボット(=本当にありそうな何か)を露悪とシリアスの間で揺れる振り子のように描いたものだ。ゆえに、それを実直に読み取り、樹脂にすればじゅうぶんリアルな(あるいは正しい意味で馬鹿げた、荒唐無稽な)印象を与えてくれるものだったのだ……という不思議な感動がここにある。パーツの曲面、ハメ合わせ、重なりかた。そのひとつひとつが「イングラムのデザインの意図」を再確認するために機能している。

 ボディ色の白/黒とシーリングや内部メカのグレーだけにとどまらず、メッキパーツの旭日章、肩に取り付けられた赤色回転灯のカバーもプラモデル的な素材の歓びに満ちあふれている。パーツの厚みやシャープネスが本物を想起させてくれるのは、1/20という大スケールが既存モデルよりも実物に近い縮尺だからこそ。赤色回転灯の内部に見えるリフレクターの構造も、リレーを組み込んだLEDが回転しているように見える発光ギミックを仕込むのとは全く違うアプローチだ。

 このキットで一番驚くのは泉野明が佇むキャットウォーク(アルフォンスのディスプレイベースから伸びる支柱に据え付けられる)の裏側にある蛍光灯やダクトの類だろう。アルフォンスにいっさいのアレンジを加えず、あまつさえコクピットの構造を再現することもしなかったこのプラモデルにおいて、我々の知っている現実世界のディテールを「完成後に覗き込まなければ見えない場所」に刻むことによって、このロボットの活躍する舞台がどこなのかを暗示している。蛍光灯から伸びる電線とその留め具、キャットウォークのリブを避けるようにうねる蛇腹状のダクトカバーは、かつてなら模型の達人だけに許された「粋な表現」と言えよう。

 プラモデルというのはなにかのカタチを模したものであると同時に、モチーフや時代や情景や、あるいはプラモデル自体を通じて表現したい「何か」をたくさんの人に気軽に手に取ってもらい、解体されたものを再構築するだけで手に入れられるようにするプロダクトだと思う。言ってみれば、スキルやセンスや知識や技術に依存していたものを「持たざる人」にも味わえるようにする、民主化のアイテムなのだ。

 その観点で言えばこのプラモデルは「かつてわれわれが模型誌の表紙で見てシビレた『リアルロボットの立体物としての高解像度な捉え方』」を民主化したものであり、自宅で組み、机の上に置き、手にとって肉眼視することでようやくその意味がハッキリと立ち上がってくるプロダクトだと思う。

 ただ大きくて、ロボットの一部分しか再現されていない突飛なプラモデル……と捉えて組み始める。そこにはよく動く全身像を組み立てるよりも強烈に「ロボットモデルが表現できていたこと/いなかったこと」を明らかにする何かが現れる。しかも、さしたる工作や塗装のテクニックは要求してこない。

 もちろん「大きなイングラムが手に入って嬉しい」という感情も満足させながら、樹脂のままでもたくさんのことを語りかけてくる稀有なプラモデルだ。組んで、手で持ち、近く遠くで眺めながらぜひとも味わってほしい。これは「自分以外の誰かが組んだ感想」を聞いただけでは絶対にわからない、しかしとてつもなく素敵な体験をもたらしてくれる最高のプラモデルだと断言しよう。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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