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城のプラモデルに宿る設計者の魂/童友社の松本城が教えてくれた「ホントのカタチ」

 松本で開催された模型展示会、「松本城下町モデルコレクション」に行ってきた。ランチついでに展示会のタイトルにもなっている松本城を初めて見て、心底感激した。黒々として力強く、端正でかっこいい天守閣。それがスッキリとした平坦な土地に建っている。一昨年初めて熊本城を見たときに「かっこいいけど、これは山の上に鎮座していることまで含めた”地形の強さ”も込みなのでプラモデルでは表現できないだろうな」と感じたものの、松本城は周囲の平坦な地形から石垣と建物だけが屹立しており、城単独でじゅうぶんキャラクターが立っているように思えた。

 城のプラモデルを買ったのはこれが初めてだ。松本城のプラモデルはいくつか発売されているが、手に取りやすくそれなりにカサのある童友社の1/350スケールモデル。パーツはかなり多く、壁という壁が一面ずつ分割されていてそれを四角く組み上げ、積み重ねていく設計。松本城の特徴的な黒い下見板は茶色いパーツでかなりガッカリしたが、黒く塗装するのはそんなに難しいことじゃない。

 埋橋や月見櫓の欄干は赤いパーツで、周囲に植えるよう指示されている軟質樹脂の木々はあっけらかんとした緑色。いかにも記号的で、ここまでは「やっぱり城のプラモデルというのは乗り物や兵器と違って、どこか土産物めいた(悪しざまに言えば「安っぽい」)質感なのだなぁ」と思っていたのだが、屋根のパーツをしげしげと眺めていると様子が少し違う。大天守2層の屋根の端に突き出すように連なっているのは「辰巳附櫓(たつみつけやぐら)」と説明があるが、 真上から見ると大天守の屋根に対して少しだけ角度が付いて見える。実物を漫然と見ていてもこの角度はいまいち判然としないし、「城というのはだいたいこんなもんだろう」で四角四面の構造体を水平垂直にくっつけた設計をしていたなら、こうはならないはずだ。

 調べてみれば、このプラモデルはもともと刀剣や武具のプラモデルを得意とする相原模型というメーカーが1970年代に金型を起こしたもので、現在は童友社がそれを引き継いでいまも販売しているらしい。松本城は廃城令を生き延びてオリジナルの天守が残っているから、こんな微妙な表現が可能になっているのだろう。そういう意味では「実物と図面を参照しながら実直に作られたプラモデル」であることが窺える。樹木にリアリティを求めるなら、自作する方法はたくさんあるだろう。ここはひとつ、素直にこのプラモデルがもつポテンシャルを引き出したい。

 自分が訪れ、城の来歴を知り、そしてたまたま掴んだプラモデルがここにある。さらっと見た印象からでは掴みきれなかった「松本城にかける思い」が込められたパーツたちは少々不格好でくたびれているが、先輩モデラーたちがていねいに組み上げた作品はどれもカッコいい。バリや突き出しピンの跡など、古めのプラモデルにありがちな部分を処理しながら集中して組み立てること1時間あまり、まだ月見櫓と辰巳付櫓の1層しかカタチになっていないのだが、現地で撮ってきた写真に重ねて眺めればたしかに松本城が持つ力強いフォルムの兆しが見える。大天守が机上に蘇るまで、たくさんの発見があるはずだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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